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ボンゴレの右腕・獄寺隼人が始めだった。
怒らせるつもりはなかったが、怒らせてしまった。
山本武も同じ。
笹川了平もランボも同じく、怒らせる気など毛頭なかったのだ。
但し、雲雀恭弥と六道骸はどうだったか―――――――それについてはあまり考えたくない。
最後にボンゴレ・ボス、沢田綱吉が赴いたが、先の6人よりも即、問答無用で愛用の二丁拳銃に充填された特大の憤怒の炎弾を雨霰の如く浴びせられるに陥った。

こうして、ボンゴレからヴァリアー・ボスへの取次ぎ?はことごとく失敗に終わり、そして、最後にクロームがヴァリアーのアジトへ向かうこととなった。

ヴァリアー城に着くと厳しい鉄扉の傍らにある鐘を鳴らしたが誰も出てこず、鍵はかかっていなかったので声を出して呼んでみたが、やはり静かなままだった。
お邪魔しますと声に出しながら城内を歩きまわり、どんどん奥へとすすみ、ようやく人の気配を感じて物々しく重たげな両開き扉をノックして部屋をのぞくと、そこにヴァリアーのボス・ザンザスがいた。
その部屋は書斎だった。
書斎というより図書館といったほうが正解だろう。
壁はすべて天井まである書棚で隠されてしまっている。
書棚から書棚へと渡る梯子に乗って頭の上に落としたら砕け散るだろう分厚い書物を引っ張り出しているザンザスを見上げてクロームは挨拶をする。
が、返答はなかった。
こちらを見ようともしない。

予想はついていたので、次は部屋に入っていいか尋ねてみる。
憤怒の炎が発射される様子はないようなので部屋へ踏み込む。
部屋に入ってザンザスの足もと近くにきても憤怒の炎でぶっ飛ばされることもなかったが、相変わらず目を向けるわけでもなく、声をかけても同じだった。
ここまで来れたら、あとはクロームのボス・綱吉の言葉を伝えるだけでいい。
返答をもらえなくてもいいらしい。

綱吉の言葉を伝えるとクロームは、ほっと安堵して退室の挨拶をしてザンザスに頭をさげた。
ザンザスは眉間に皺を刻んで厚い書物を片手で軽々と支えてページを捲って探索している。

クロームは立ち止まって自分の手をひろげ、ザンザスのがしっりとした、それでいて長く節くれだった五指をもつ大きな手をしばし見比べた。

「とっても綺麗ね」

そう口にしてみて、ふっと思い出す。
ファミリーの継承者を決める争いの中で繰り広げられた炎と破壊、この男の意思と両手から生み出された圧倒する光景。
それは、ずっと昔ことだった。
まだ綱吉も骸も、皆が、この地から遠い極東の島にいた頃だ。

「あなたの、手、綺麗」

もう一度、ザンザスのいる梯子の足もとへと戻り、見上げて伝える。
それまでクロームの言動にぴくりともしなかった男が僅かに視線を動かした―――――――ような、気がした。

その美しさを、どのように表現したらいいのか記憶の中から言葉を探す。
どこかで誰かが言っていた言葉―――――――。

「雨上がりの、蜘蛛の巣、みたい」

言葉を思い出せたクロームは嬉しくなってザンザスへ微笑むと、今度こそ部屋から出て行くために背を向る。

「―――――――なんだ、そりゃ」

やがて、呆れた響きを含んだ重低音のような声がクロームの耳に届いた。

「馬鹿か、てめえは」


綺麗な指
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