私はなんて無力なんだろう。

それぞれ異なった世界からコスモスの元へと集った戦士たち。そんな中、同じくしてコスモスに召還された身であるにも関わらず、シオンには戦闘能力が備わっていなかった。
ならばせめてみんなの傷を癒やしたいと思うも、回復魔法の一つ唱えられない。

私は、一体何の為に此処にいるのだろう。

己の存在意義がわからず、苦しみもがきながらも。みんなと一緒にこの世界を救いたいという一心で、ここまでやってきた。しかしそんな日々も、今日で終わりを迎える。


「…行く、んですね」

「ああ」


誰かに身を守られるたび、自己嫌悪に陥った。みんなの足を引っ張っている事実に、悔し涙を流した日だってある。私に、私に力があったら。ただそれだけなのに。何度思ったかわからない。
それでも、私がみんなの元から離れようとしなかったのは。独りになるのが怖かったからではない。仲間という枠を超えて、ただ隣にいたいと。側にいたい、離れたくないと思えるひとに出逢えた。だがそれと同時に、失うことの恐ろしさも覚えた。


「そろそろ皆も集まっている頃だろう。私もコスモスの元へ向かう」

「…はい」

「これが、最後の戦いとなる」


全てのクリスタルを手に入れ、戦士たちはいよいよカオスに立ち向かってゆく。
今までは危険を承知で同行していたシオンも、今回ばかりは彼らの帰りを待つことになっていた。カオスの強大な力は、あまりに危険すぎる。


「シオン」


自身の背丈より幾分も大きいウォーリアが、顎を引き、不意に真っ直ぐな視線をシオンにやった。吸い込まれるような瞳がこちらに向いている。


「ッ…、」


言いたいことは山ほどある。なのに、喉の奥につっかえて何一つ言葉にならない。鋭い中にも優しさを秘めた彼の瞳を、ただ見つめ返すことしか出来なかった。
あぁどうして私は、最後まで。


「これまでの戦いに決着をつけ、必ず此処へ戻ってくる」

「…でも、」

「カオスを倒した後、この世界が、自分がどうなってしまうのかは、私にもわからない」

「……」

「だが約束しよう。必ず君を迎えにくると」


言って、ウォーリアは僅かではあるがシオンに微笑む。
表情変化の乏しい彼が見せる精いっぱいの優しさを目にして、言葉に成らない想いは両目から次々に溢れ出る。


「うっ、ウォーリア、ッさ」

「何故泣く」

「だって私…今までずっとッ…みんなの力になれなくって…!みんなと…ウォーリアさんと一緒に戦いたいのに…ッこうして待つことしか出来ないから……!」

「…君は一つ勘違いをしているな」

「うっ…うぅッ」


シオンの細い肩をウォーリアの両腕が包み込んだ。
頬にぶつかるのは硬い鎧のはずなのに、あたたかく感じるのは何故だろう。


「戦闘にしろ、回復にしろ。何も力だけが全てではない。君は無意識なのかもしれないが、私は数え切れないものを君から貰っている」

「…え……?」

「君が隣にいることで、私は前を向ける。それが支えとなる」

「ウォーリア、さん…」

「魔力など無くとも、その笑顔さえあれば充分なのではないか」


こつん、と頭の上に重みが乗った。ぐちゃぐちゃになった感情と一緒に、言いようのない喜びを噛み締めて瞼を閉じる。
そうしてから、顔を上げ、思いきり背伸びをする。がっしりとした肩に両手を添えれば、シオンの腰に両腕が回った。

二人は身体を寄せ合い、笑う。指で兜を持ち上げたシオンが、ウォーリアの額に唇を寄せた。そしておまじないをかけるかのように、ゆっくり、愛おしそうにそこへと触れる。


「いってらっしゃい。ウォーリアさん」

「ああ。いってくる」


額に呪文を(この魔法は崩せない)



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