「ねぇ」

「……」

「…ねぇ」

「……」

「ウォーリアったら」

「ああ」

「ああ、じゃなくて。重いんだけど」


ずるずる、ずるずる。

先ほどからウォーリアが私の背中にぴったりと張り付いて、ずっと離れる気配がない。

けして広くはないキッチン。屋敷とは呼べないような建物を拠点として行動している私達は、かわりばんこに留守番をし、夕食を用意してみんなの帰りを待つ。

そして今日は私の当番だったわけで。

珍しくまだ陽も沈みきらない内に戻ったウォーリアは、「ただいま」というなり鎧も脱がないまま、こうして私の腰に手を回し、おもむろに体重をかけた。


「眠いんならソファいったら?出来上がったら起こすから」

「いや…眠いわけではない」

「…なんだか甘えられてるのは嬉しいんだけどさ。おかげで調理がまーったく進まないの、わかるかな」

「そうか。礼を言う」

「人の話聞いてた?」


最初こそ一体どうしたんだろうと心配したものの、別段何かあったわけでもないらしい。
安堵すると同時に、すっかり落ち着いてしまったような様子に苦笑いをこぼす。澄ました顔をしながら、この人は時々大胆なことをやってみせるから参ってしまう。
慣れたつもりでいても、いまだ驚かされてばかりだなぁと思う。ずるずる、どきどき。いつだって心臓の音は正直だ。


「ね、みんな帰ってきちゃうよ」

「そうだな」

「はぁ…まったく甘えんぼさんなリーダーね」


観念して火を止める。
身体ごとくるりと振り返ると、ぎゅっと力が籠もる腕と、額に落ちてくる軽めのキス。
もどかしげに首筋に噛みつけば、頭上でウォーリアが目を細める。
正しくいえば、きっと細めている。見なくたってわかる。


「私からすれば、君も充分甘えん坊だが」

「勘違いしないでよ。ウォーリアにだけなんだから」

「…そのまま返しておこう」


重ねた唇のなかで絡む舌と舌。
すぐそこの扉がいつ開くかもわからないのに、急いたように這う掌が、身体の芯を熱くする。もう止まれない。

こんなスリルも、たまには悪くないかもね?


融けてしまうなら君の傍がいい



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