静かな夜だった。
常時邪悪なイミテーションが闊歩しているのが嘘のように辺りはシンと静まり返り、世界をぐるりと暗闇が包み込む。

月の渓谷でもなければ星は見えない。よって黒よりもずっとずっと深い闇が先まで続いていて、このまま一緒に溶けてしまうのではないかと思った。一人考えて、思わず身震いをする。


「そこに居るのは誰だ」


聞き慣れた、凛とした声。
さすがだなと感心しながらも、シオンの顔はみるみる困ったような顔へと変わる。
よりにもよって、厄介な人物に見つかってしまった。よりにもよって。


「…シオンか」

「うぉ、ウォーリアさん。おはようございます。そしてさようなら」

「待て、どこへ行く。それから今は夜だ」


もっともな返しだが、出来れば今は誰とも会いたくなかった。
そもそも今日の見張り番はスコールのはずだったのに。わざわざ裏から回った意味と苦労が、たった今水泡に帰した。
というかこの人、人のことを棚に上げといて自分はこんな真夜中に何をしてたというのだ。


「少し眠れなくてな」

「え、ウォーリアさんが?珍しい…って今人の心読みましたよね」

「私は構わない。だが、私達とはまた違った世界から召還されたきみは戦えない」

「はぁ…そうですね」

「夜中だろうといつイミテーションが襲ってくるか分からない。…私が言いたい事は分かるな」

「…はぁーい」

「我々にはきみを護る義務がある」


そう言って、微かに微笑んだウォーリアさんを見たら急に申し訳なさが押し寄せた。
自分の軽率さを反省しごめんなさいと素直に謝れば、「いい子だ」と言って頭を撫でてくれた。ウォーリアさんは、厳しいけど優しいお兄ちゃんみたいだ。


「ところで、きみはどうしてこんなところをフラフラしていた」

「あ、いやあの…」

「テントはティナと二人だった筈だが」

「えーと、そのティナがなんか…悪い夢でも見てたらしくて。いきなりフラッド喰らって…怖くて出て来ちゃったみたいな」

「……」

「仕方ないですよね、ほら」


まさか男だらけのテントにお邪魔するわけにもいかず、当番の代わりに朝ご飯を作ろうにもまだまだ夜は長くて。

きっと覚えていないであろうティナに気を遣われては適わない。そう思って夜が明けるまで一人でいることを決めた。
しかし今思えば、もうちょっとスコールを信頼してもよかったかもしれない。彼、口固いどころか余計なこと喋らないし。


「…驚いた。きみにも優しさというものがあったのだな」

「あのぉ、ウォーリアさん?何だか余計な言葉だらけなんですが」

「よし、分かった。ならば私のテントに来るがいい。私が添い寝をしよう」

「はい!?」

「人肌があると体温で眠りやすくなるらしいしな。丁度いい」

「ちょっと待ったそれ完全にウォーリアさんの事情ですよね!て、てゆーかいくらウォーリアさんでも同じテントっていうのは…あの…その…!」

「安心しろ。君にムラムラすることなど決してない。光に誓おう!!」

「誓わんでいーです!むかつく、ほっとしたけどなんか凄いむかつく!」


添い寝どころか腕枕までしてくれたウォーリアさんとの一夜は、本当に何事もなく終わった。
こっちは変にドキドキしちゃって、なかなか寝付けなかったというのに!


つまり仲がよろしい

「おーいウォーリアー、朝だぞー。ってえええええ!?」

「…どうしたバッツ」

「見ちゃダメだクラウド!!こっから先は大人の時間!」

「…オレお前より年上」

「抱き心地が良さそうだな…(そして紛らわしい)」



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