好きにならせた責任とってよ
小さい頃、ため息を1回吐く度に寿命が3秒縮まると言った近所のお兄さん。あれは本当だったのかな。それなら、私はここ数ヶ月でだいぶ命を縮めているはずだ。みんなよりも早く死ぬことになったらアイツが死ぬまで恨んでやる。そんな恐ろしいことを晴れ渡る空の下でいたって真面目に考えていた。


今は祓魔塾の休み時間。さっきまで実習をしてたんだけど、チーム内で体力のあまりないしえみちゃんを手助けするために勝呂竜士という男は軽々と抱え上げみごと課題をクリアした。私も同じチームだったし、しえみちゃんは大切な友達だから感謝した。うん、表向きは。


内心は何かがわき上がるように胸の奥がぐらぐらと揺れていた。暑いのも、蝉の鳴き声も、吹き出る汗も全てに苛々する。違う。本当は違う、もっと別のものに胸が落ち着かないのに、それを認めたくなくて。


私は小さいころから立派な祓魔士になりたかった。それには可愛い女の子の平均的体力なんて必要ないし、虫を怖がるような可愛らしさも必要ないし、誰かに甘えるなんていうことも必要なかった。そうやって切り捨てきたもの、私の持ってないものを全部持っているしえみちゃん。


彼女に向ける感情が、たまに自分でも言葉に出来なくて、気持ち悪くて、恐ろしい。


ちょっと前までなら何も気にならなかった。別にそんなもの欲しくなかった。つまり、やっぱり全てはアイツが悪いのだ。アイツが私の目の前に現れてから全てが変わった。アイツさえいなければ、私は大切な友人にこんなどす黒い感情を向けずに済むのに。はぁ。今日すでに何度目か分からないため息を吐いた。


「ため息ばっかついとると、幸せ逃げてまうで」


日陰なんて一つもなかった実習場に座りこんでいた私は、急になにかの陰に包まれた。さらに嫌みったらしいこの言葉。特徴的な関西弁に顔を上げずとも誰だか分かる。はぁ。誰のせいで私がこんなに幸せを逃がしてると思ってるんだ。


「ほっとけ、鶏」
「誰が鶏や、阿保」
「誰が阿保や、阿保」
「お前ほんま可愛くないな」
「私ほんま可愛くないねん」


私の感情のこもってない声にか、オウム返しのような返答にか「お前さっきから変やで。何かあったんか?」なんて、髪をぐしゃぐしゃと撫でながら呟いた。私はこいつのこういうところが嫌なのだ。無防備な優しさだとか、考えなしの思いやりだとか、見返りを求めない甘さだとか。本当にお人好しで、ありがた迷惑という言葉の意味を教えてあげたい。


「鶏には関係ないでしょ」
「なくても気になるんや」
「うるさいなぁ!」


さっきからたまっていた苛々に更にプラスされ、思わず声を張り上げてしまう。それなのに、威勢良く出た声のように次に続く言葉はなかなか出てこない。言うんだ、言ってしまえ。言えばスッキリするから。少なくとも寿命を縮めることは少なくなるに違いない。変な期待さえ、なくしてしまえば。


そう思っても声を出そうとすると、息が止まりそうになった。ただでさえ走った後だし、夏の炎天下だし、暑くて暑くてたまらないのに更に自ら体温を上げる馬鹿なんてそうそういないだろう。


好きにならせた責任とってよ


だけど、そんな馬鹿にこんなこと言われても、似合わないくらい綺麗に微笑んで結局甘やかしてくれちゃう勝呂は多分もっと馬鹿なんだろう。




110824
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