ずっと泣きたかったよ
ベッドからカーテン少し引っ張ると、空が段々と白んで来ているのが見えた。もうそこまで朝は来ている。それなのに、私の夜は一向に明けそうにない。


このまま一生眠れなかったらどうしよう、なんて考えたのはほんの少しで、眠れなかった長い夜の間ずっと考えていたのはあいつのこと。


考えたってしょうがないし、ずっと考えないようにしていた。勝呂一人だと、少し喧嘩っ早いところあるから不安だけど、志摩くんも子猫丸くんもいるし。あの目付きなら近付いてくる女の子もそういないだろう。


私の心配することも、考えることも、何一つない。それでも私は今まで一緒だったように、これからも一緒だと思っていたから。一緒に高校生活を送れると思っていたから。


心配とか不安とかじゃなくて、私は単に寂しいのだ。それでもこれを口に出してしまったら私の世界は壊れてしまいそうで。


アドレス帳のさ行をなぞるように見つめると少しだけ楽になった。あと一つボタンを押せば、いつでも繋がることが出来る。そんなふうに自分を慰めるのも、もう限界だった。


魔法のボタンだと思っているそれは、ある種パンドラの箱のようなものだ。これで勝呂が出なかったら、すぐに繋がることが出来るものではないと証明されてしまう。そうしたら私は今度はどうやって自分を納得させようか。


そもそもこんな時間に出る方が「もし、もしっ!」途切れることがないような、死刑宣告のようなコール音は何の前触れもなく終わり、何にを話そうか、とか何も考えていなかった私は反射的にそう告げた。


「お前、何時やと思ってんねん…」


すると返ってきたのはどうしようもなく不機嫌そうな声。勝呂竜士の声。ずっと聞きたかった声。私だけに向けられた声。いつも傍にあった声。ぶっきらぼうなのにいつも優しかった声。こえ、こえ、こえ。


「4時過ぎくらいやろか、」


頭の中にじんわりと広がって、麻薬のようにそれ以外何も考えられなくなる。言いたいことなんて特にない。それでも声を出すのは、反応してくれる声が愛しいから。耳に頭に胸に、どんどん浸透していく、何か暖かいもの。


「阿保か、切るで」


さっきまで睨めっこしていた時計のお陰でするりと出た時間に、自分も驚いてしまう。明日も学校だろうに、なんで電話しちゃったんだろう。朝起きて夢だって思ってくれたらいいな。変な心配掛けたくないし。


「うん、おやすみ」少し冷静になった私は満足感と共に申し訳なさを込めてゆっくりと告げることが出来た。勝呂は元気なんだ。あっちで頑張ってるんだ。私も頑張らなきゃ。明日からは、一人で頑張るからね。一方的な約束を取り付けて、ぎゅうっと携帯を握りしめる。勝呂との約束なら、頑張れる、よ。


「…阿保。お前がこんな時間に意味もなく電話してくる程阿保やないて知ってるわ」


それなのに、私の世界にはやっぱり彼がいてくれて。一人になることなんて、ずっとなくて。


「勝呂元気かな、って思っただけやて」
「元気やで。ばっちり寝てたけどな」


今更になって罪悪感がこみ上げてきて、白々しく適当な言葉を選び出す。勝呂は頑張ってるのに、夢のために、お寺のために、みんなのために、自分のために。それなのに、私は。自分のことばかり考えて、迷惑かけて、心配かけて、恥ずかしい。どうして私はいつもこうやって、


「寂しかったら泣いてもええんやで?」


どうして勝呂はいつもこうやって、私を全て見通してしまうんだろう。どうして私が言えない言葉を知ってるんだろう。どうして離れていても私の涙を拭ってくれるんだろう。


「…阿保ちゃうんか?」
「阿保はお前やろ」


やっぱり私は勝呂が大好きだなぁ、自然にそう思えたこの気持ちが何よりも大切で。勝呂も同じ気持ちでいてくれたら良いなぁ、なんて願ってしまった。勝呂は言葉にするのを嫌がるけど、私はいつだって聞きたいんだ。


今すぐ駄々をこねたって良いんだけど、彼がいつもより優しく笑うから。私も小さく声をあげて笑った。


ずっと泣きたかったよ
それなのに、勝呂は私のこと声だけで笑わせてくれるんだね




110607
素敵企画ステファニー様に提出させて頂きました。
[ 7/11 ]
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