君がいた日々を想う
「サッカーやんねぇ?」そんなメールから集まった小学校のクラスメートたち。あの学校はもうなくなってしまったし、もう集まることなんてないんだろうとぼんやり思っていたのにまさか大学生にもなってスポーツをするために集まる日が来るとは思わなかった。


たかがサッカー、されどサッカー。私たちにとってサッカーは特別なのだ。なんにもないこの場所に大切な思い出をくれたサッカー。結局私は未だにルールだってよくわかんないし、テレビでやってたって見ようとも思わない。だけど、サッカーと聞くだけで胸が熱くなるのも事実。


さようなら、だけどずっと一緒だよ。そんな言葉をくれた先生とクラスメート。馬鹿みたいに走り回って、馬鹿みたいに笑って、世界で一番幸せだと思った。あの日はいつもは書かないくせに、いつまでも日記を書いていた覚えがある。そんな今では笑っちゃうような思い出。


この町を出てしまった人も数人いて、みんな集まることはできなかったけどまたこうしてみんなに会えるなんてやっぱり嬉しい。サッカーやろうぜ、なんて言ったくせにちゃんとしたサッカーボールなんて誰も持ってなくて、私たちが蹴っ飛ばしたのは学校にあったような小さなボールでやっぱりくすぐったかった。


頼み込んで貸してもらった校庭はあの時より何倍も小さく見えて、遠い昔のことなんだと確認させられた気がした。それでも隣を見ればあの日と同じ笑顔がある。変なの。ずっと会わなくて、ずっと会わないと思ってたのに。何にも変わってなくて、私もつい笑みがこぼれる。


「大介がさ、テレビに出ててさ」


メールを回してきたアイツがみんなの会話を遮るように大声を出した。多分みんな同じことを思ってたんだろう。「ニュースで名前呼ばれてたよな!」「わたしも見た!」なんて興奮した様子で騒ぎ出す。私だってメールでサッカーという単語を見た時から彼のことを思っていた。彼の言った言葉を思っていた。


「なんか、あの大介がって感じだよね」誰かが言った台詞に「そりゃそうだ」とみんな笑った。私だってそう思ってた。サッカー選手になりたい人なんて山のようにいる。サッカーが上手い人だって山のようにいる。それなのに、大介が大好きなここを離れる必要なんて本当にあるの?彼がここを出ると聞いた時からずっとそう思ってた。だけど言えなかった。大介はここを離れるのも、私と会えなくなるのも寂しいだなんてこれっぽっちも思っていなかったから。


「でも、皆に会いたくなった」
「俺もだよ」


ぽつりぽつりと紡ぎ出される言葉に鼻の奥がつぅんとした。結局全部彼の思い通りになっちゃうんだ。やっぱり悔しいけど、いつもみんなのことを考えてくれてたんだもん。当たり前と言えば、当たり前か。


「大介のお陰だね」
「そうだね」
「会いたいな、大介」
「無理だよ、プロのサッカー選手だよ?」


そう言った自分の声が自分の心臓を押しつぶそうとする。彼がここを出て行ったあの日から、私は一度も彼に会っていない。どんな名門校に行ったのか知らないけど、一日も帰ってこられないなんて絶対嘘だ。となると、帰ってきているのに隣の家まで来る暇は無いってことだ。


ふははははは!どこかの悪役のように不気味に笑い出したこの集まりの主催者をじろりと睨み付ける。「いるんだよ、大介」みんなの視線が集まったのを確認してからゆっくりと開かれた彼の口。そこから出たものは、嬉しいはずの言葉なのにどうしてか死刑宣告のような気がした。


「だいすけえええええ!」


もう開かない校舎の方に走り出したそいつは、彼の声を張り裂けそうな声で叫び出す。なにそれ、いつから?少なくともあいつが大介の名前を出した時にはいたんだろう。私たちの会話を聞いてたってこと?うげ、趣味悪い。大体どうしてここにいるの?来るなら連絡くれればいいのに。こんなジャージにスニーカーみたいな格好じゃなくて、少しはお洒落してきたのに。大介はいつも私の気持ちなんて分かってない。いつも、いつも。


あいつが走り出した途端にみんなが大介に気付き、続くように走り出した。校庭に残っているのは私だけ。早くおいでよ、とみんなが私の名前を呼ぶ。それでも、大介の声は浮いているようにハッキリと耳に届く。私がこの声を求めていることを、ちゃんと耳は理解してるんだ。なんか、それ、悔しい。


「俺、夢叶ったよー!」


そう叫んだ大介の夢とは何のことだったのだろう。サッカー選手のことだろうか、それとも自分を見てみんなが繋がっていられたらと言ったあのことだったのだろうか。そんなの、どっちだって良い。彼がここにいるなら、なんだって良いのに。それでも明日になれば、またテレビの中に戻ってしまうんだろう。


君がいた日々を想う
(君のいる日々を夢見る)




110204
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