クール?後輩×地味先輩

クール?後輩(清水)×地味先輩(村井)1


 僕は清水に憧れている。

 後輩に憧れるというのも変な話だが、彼の卓抜した野球センスと、物静かでクレバーな雰囲気は、年齢に関係なく惹かれてしまう。

「村井先輩、昼メシ」
「うん」
 
 三年生の教室でも物怖じせず、清水は堂々と弁当を広げた。

 クールで他人に興味なんてなさそうなのに、僕にだけ懐いているところがかわいい。
 年下に憧れるというある種の屈辱は、ほんの少しのかわいさによって緩和されているのだと思う。

「今日何すか」
「卵焼き、からあげ、アスパラの豚肉巻き、ひじき」
「ひじきで」
「渋いなあ」

 ひじきの煮物を根こそぎ奪われたが、代わりにマカロニサラダをくれた。

「先輩のひじき美味いんで」
「ひじきだけ僕が作ったって、よく分かったね」
「まあ」

 言葉は少ないが、少ないからこそ嘘臭くない。黙々と食べる彼を見ていると、自然と笑みがこぼれてしまう。
 地味でレギュラーでもない僕に懐いている理由は不明だが、昼休みに毎度やってくるという事は、もしかしたら料理が目当てなのかもしれない。だとすれば、意外と本能に忠実な男だ。

「……最近、よくスマホ見てるね」
「はあ、そうっすかね」
「ゲームとかしてたっけ」
「別に……」


 清水には好意的な印象を持っている僕だが、ひとつだけ嫌なところがある。
 僕と一緒にいる時、やけにスマホを触っているのだ。部活の皆といる時はそうでもないのに。

 ゲームもネットサーフィンもSNSもやっていないと言うが、話しかけている時にこうもスマホばかり触られると(しかも僕に画面を隠して)正直気持ちの良いものではない。

「先輩、米ついてる」
「へ」
「……とれた」

 清水は米をつまんで取ると、そのまま指の腹で潰した。

「あ、ありがと……手洗っておいでよ」

 彼は制服の裾で拭おうとしたが、渋々席を立ち、「ここにいてくださいね」と告げた。そして机の上にスマホを置き、教室を出る。


 ぽつんと置かれた液晶はすぐに暗くなったが、一瞬だけ見えてしまった。わざと見たのではない。本当にたまたま目に入ってしまった。

「やってんじゃん、SNS……」

 青と白の画面は、某つぶやき系SNSのそれだった。




***




 部室の鍵当番である僕は、一番に部室に来て一番に着替える。
 練習用のユニフォームは少し小さくて、とくに太ももの辺りが窮屈で履くのが苦しい。

「清水貴信、っと……」

 まだ誰もいない部室。まさか本名でSNSをやっているとは思えないが、僕はどうしても昼休みのあの画面が気になり、検索バーにそう打ちこんだ。


清水貴信 @senpai4545love
今日も先輩ぎゃんかわすぎた
昼休みを一緒に過ごせる幸せ


――――いや、ただの同姓同名アカウントだろう。何を動揺しているんだ僕は。


清水貴信 @senpai4545love
米粒に嫉妬。怒りのあまり、ついひねりつぶしてしまった……先輩の唇に張り付くなんて許せん……

清水貴信 @senpai4545love
手作りひじき美味すぎる
嫁にきてください
村井から清水になれ

清水貴信 @senpai4545love
あーむらむらしてきた(村井だけに)
今から先輩のケツと太ももパツパツユニフォーム見るのか、耐えきれるだろうか…………いやたぶん無理だ先輩だいしゅき



「こ、これは……」
「先輩、ちわーす」
「うぎゃあ!」

 いつのまにか真後ろにいた清水は、いつものクールな声で挨拶をしてきた。
 彼とさっきのアカウントは、たしかに名前と書いていた内容が多少、いやかなり結びつくのだが、まさか、まさかそんな事あるまい。

「何見てるんですか?」
「あっ」
「……ああ、これ」

 覗き込まれた画面には、ハートマークがたくさん散らばっている。
 同姓同名の変なアカウントを見ても、清水は焦ったり怒ったりせず、それどころか満足そうに口角を緩めた。


「やっと見つけてくれたんですね、先輩」




 彼は頬を赤らめ、はあはあ、熱い息を吐きながら顔を近づけてきた。

「今日、監督が早退したんで部活休みです、だから誰も来ないんですよ」
「あ、あの、清水……」
「先輩にだけ伝え忘れてました。スミマセン」

 部内で一番しっかり者だから、という理由で伝令係を任せられている彼が、伝え忘れなんてするはずがない。
 きっとわざと僕にだけ伝えなかったのだ。なぜなら、謝罪の言葉がこんなにも棒読みだ。

「な、なに、なんでそんな、寄ってくるの……?」
「先輩、ユニフォーム姿えっちですね」
「え、えっちってなんだよ、あ……っ」

 期待の一年生ピッチャーと名高い清水の、大きくてごつごつした手が、僕の内ももを撫であげた――――



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