▼クール?後輩×地味先輩
クール?後輩(清水)×地味先輩(村井)1
僕は清水に憧れている。
後輩に憧れるというのも変な話だが、彼の卓抜した野球センスと、物静かでクレバーな雰囲気は、年齢に関係なく惹かれてしまう。
「村井先輩、昼メシ」
「うん」
三年生の教室でも物怖じせず、清水は堂々と弁当を広げた。
クールで他人に興味なんてなさそうなのに、僕にだけ懐いているところがかわいい。
年下に憧れるというある種の屈辱は、ほんの少しのかわいさによって緩和されているのだと思う。
「今日何すか」
「卵焼き、からあげ、アスパラの豚肉巻き、ひじき」
「ひじきで」
「渋いなあ」
ひじきの煮物を根こそぎ奪われたが、代わりにマカロニサラダをくれた。
「先輩のひじき美味いんで」
「ひじきだけ僕が作ったって、よく分かったね」
「まあ」
言葉は少ないが、少ないからこそ嘘臭くない。黙々と食べる彼を見ていると、自然と笑みがこぼれてしまう。
地味でレギュラーでもない僕に懐いている理由は不明だが、昼休みに毎度やってくるという事は、もしかしたら料理が目当てなのかもしれない。だとすれば、意外と本能に忠実な男だ。
「……最近、よくスマホ見てるね」
「はあ、そうっすかね」
「ゲームとかしてたっけ」
「別に……」
清水には好意的な印象を持っている僕だが、ひとつだけ嫌なところがある。
僕と一緒にいる時、やけにスマホを触っているのだ。部活の皆といる時はそうでもないのに。
ゲームもネットサーフィンもSNSもやっていないと言うが、話しかけている時にこうもスマホばかり触られると(しかも僕に画面を隠して)正直気持ちの良いものではない。
「先輩、米ついてる」
「へ」
「……とれた」
清水は米をつまんで取ると、そのまま指の腹で潰した。
「あ、ありがと……手洗っておいでよ」
彼は制服の裾で拭おうとしたが、渋々席を立ち、「ここにいてくださいね」と告げた。そして机の上にスマホを置き、教室を出る。
ぽつんと置かれた液晶はすぐに暗くなったが、一瞬だけ見えてしまった。わざと見たのではない。本当にたまたま目に入ってしまった。
「やってんじゃん、SNS……」
青と白の画面は、某つぶやき系SNSのそれだった。
***
部室の鍵当番である僕は、一番に部室に来て一番に着替える。
練習用のユニフォームは少し小さくて、とくに太ももの辺りが窮屈で履くのが苦しい。
「清水貴信、っと……」
まだ誰もいない部室。まさか本名でSNSをやっているとは思えないが、僕はどうしても昼休みのあの画面が気になり、検索バーにそう打ちこんだ。
清水貴信 @senpai4545love
今日も先輩ぎゃんかわすぎた
昼休みを一緒に過ごせる幸せ
――――いや、ただの同姓同名アカウントだろう。何を動揺しているんだ僕は。
清水貴信 @senpai4545love
米粒に嫉妬。怒りのあまり、ついひねりつぶしてしまった……先輩の唇に張り付くなんて許せん……
清水貴信 @senpai4545love
手作りひじき美味すぎる
嫁にきてください
村井から清水になれ
清水貴信 @senpai4545love
あーむらむらしてきた(村井だけに)
今から先輩のケツと太ももパツパツユニフォーム見るのか、耐えきれるだろうか…………いやたぶん無理だ先輩だいしゅき
「こ、これは……」
「先輩、ちわーす」
「うぎゃあ!」
いつのまにか真後ろにいた清水は、いつものクールな声で挨拶をしてきた。
彼とさっきのアカウントは、たしかに名前と書いていた内容が多少、いやかなり結びつくのだが、まさか、まさかそんな事あるまい。
「何見てるんですか?」
「あっ」
「……ああ、これ」
覗き込まれた画面には、ハートマークがたくさん散らばっている。
同姓同名の変なアカウントを見ても、清水は焦ったり怒ったりせず、それどころか満足そうに口角を緩めた。
「やっと見つけてくれたんですね、先輩」
彼は頬を赤らめ、はあはあ、熱い息を吐きながら顔を近づけてきた。
「今日、監督が早退したんで部活休みです、だから誰も来ないんですよ」
「あ、あの、清水……」
「先輩にだけ伝え忘れてました。スミマセン」
部内で一番しっかり者だから、という理由で伝令係を任せられている彼が、伝え忘れなんてするはずがない。
きっとわざと僕にだけ伝えなかったのだ。なぜなら、謝罪の言葉がこんなにも棒読みだ。
「な、なに、なんでそんな、寄ってくるの……?」
「先輩、ユニフォーム姿えっちですね」
「え、えっちってなんだよ、あ……っ」
期待の一年生ピッチャーと名高い清水の、大きくてごつごつした手が、僕の内ももを撫であげた――――
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