わるわる歯医者×おばか高校生

わるわる歯医者×おばか高校生1




 俺は鬼島先生を信頼していない。俺の虫歯がなかなか治らないのは、彼の腕が悪いせいなのだ。

「それは言いがかりだよ桃太くん」
「あっあっ先生やめて、無理だよそれ怖いよ、ひ、左手挙げちゃうぞ」
「まだ何もしてないでしょ」

 先生は腕が悪いのに、顔面が死ぬほど格好いいせいで患者が途切れない。
 それをいい事にこの男、俺の治療を適当に済ませているのだ。そうに違いない。

「もっと大きく口開けて、あーーん」
「あががっ……」

 左手をぴしゃりと降ろされ、無理やり口をこじ開けられた。これは人権侵害である。俺は怒ったが、イライラしている先生が怖いので逆らいはしない。

「……はあ、桃太くん。泣かれると唇が動いて邪魔」
「う、うええぇ……ひっく……ひっく……」
「桃太くん……」

 マスクをしていても、彼の呆れかえった表情が分かる。

 鬼島先生は手袋越しに俺の舌を撫でた。これは「痛くしてごめんね」の意らしい。「いいよ」の意を込めて、俺も彼の指を舐める。
 初めて来たときに教えてもらったやり取りだ。他の歯医者さんでしてはいけないが、ここでは絶対にしなきゃいけない、と教わっている。

「……ごめんね、本当に僕の腕が悪いのかもしれない」
「そ、そんな、違……」

――――どうしよう、鬼島先生を傷つけてしまった。


 本当に怖がっている時は治療をやめてくれる先生。
 少しでも楽なように、バナナ味の麻酔を塗ってくれる先生。
 俺の口のサイズに合わせて、小児用の器具を使ってくれる先生。

 本当はわかっているのだ。鬼島先生が一生懸命治してくれている事。腕が悪いなんて事はなくて、俺がびびりすぎているだけな事。

 高校生にもなって、大人の人にこんな表情をさせている。なんて情けないのだろう。恥ずかしくてまた泣きそうだ。そんな俺の顔を見かねて、先生は舌をなでなでしてくれる。
 俺の馬鹿、こんな優しい先生を傷つけるなんて。

「……ねえ、よければだけど」
「は、はひ」

 罪悪感でビクビクしながら、俺は鬼島先生を見上げた。


「桃太くん、口を開ける練習しようか」


 なんと、そんな練習があるのか。
 一も二もなく頷いた俺は、先生に言われるがまま奥の医院長室へ向かった。




***




「まずはこれ、くわえてみて」

 手渡されたのは棒付きのキャンディ。球体ではなく、ぐるぐる渦巻き模様の大きな飴ちゃんである。
 なるほど、大きいものを口に入れ、慣れさせようというのか。それにしても虫歯治療中に飴とは、これいかに。そう尋ねてみれば、先生は「たしかに」と納得してくれた。

 いかにもインテリな鬼島先生が、俺の発言に耳を傾けてくれた。俺はそれがとてもうれしくて、やっぱりこの先生に治療を任せたいと思ったのだ。

「じゃあおちんちんにしようか」
「へ?」
「大きさ的にもちょうどいいし、あと僕のおちんちんはキシリトール配合だから」
「きしりとーる」


 歯磨き粉やガムに入っているあれだ。という事は、歯に良い成分なのだろう。
 ん? それにしても、おちんちん? おちんちんをくわえるのか?


「さあ桃太くん、お口あーんしようね……


 よく分からないが、信頼する先生がこう言っている。俺はその場で膝をつき、もっこりと膨らんでいるスラックスの前に顔を近づけた。



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