朝の陽射しが眩しいほどに、道路を照らす。それをじっと見て歩いていたら、眩しくてすぐに目を逸らした。我ながらばかなことをしたなあ、と思う。いや、わざわざ自滅するように道路を見ていたことに対してではなくて! ――コイツを図書館にこの前、連れてったこと。


「あっついねえー」

 後ろでパタパタと手で顔を扇ぐアイツは、俺のそんな気も知らずに、道路を見つめていた。はっ、ばかめ。それを続けていたらお前はきっと自滅することになる!

「眩しっ」

 ほーら見ろ、だから言ったろ、俺が心の中で。んなことすんのお前だけだよ。そんな風に思ってから、げ、自分もやったんだった、と恥ずかしさに俺は顔を赤くした。

 誤魔化すように「は、はっはーん、ばかめ」とケラケラ笑ってやるも、カイトが「あーくん顔が真っ赤だよ? 大丈夫?」とかなんとか声をかけてくるから咽せた。


「ば、ばーかてめえに心配されなくても平気だっての、こっち見んなばーかばーか」

「はっ、あーくんまさか……!」

 それからキラキラとした目をこっちに向けてくる。その青になんとなく吸い込まれそうになって、誤魔化すように視線を逸らした。あーあ、綺麗だったな結構。いつも綺麗だけど今のコイツの目はもっと。もうちょっと、見とけばよかったかもしれない。

 だけれどカイトは俺の動揺を全く気にせずに、近くにいた女を指差して、


「あーくん、あの人に惚れちゃったんでしょー。やーん、あーくんのえっちー」


 とか言うもんだからまた咽せた。なんて天然なんだこのばか(イト)。

 大体、俺が好きなのはお前一人だっての、いい加減気づけよ、どんだけ鈍感なんだよ。マスターの家で見た同なんちゃら誌ってヤツではお前すごい敏感だったぞ、色んな意味で。なんでそんな風になれないワケ? もしかしてほんとは気づいてるんじゃねーの。

 ――そんな風に悶々と悩んでいれば、カイトがなにを思ったか「ふーん」とか「はーん」とか言いやがる。なにコイツ。どんなカイトですか。俺の真似すんじゃねーよ。いや、ちょっと嬉しいからいいけど。ほら、仲いいヤツらは似てくるって言うだろ?


「家のめーちゃんのことも、あーくんえっちな目で見てるんでしょー? だめだよー」

「……お前さ、」


 そうしたらこれだ。本当にその鈍感加減にはどう対処していいのか分からなくて、俺は呆れたように声を漏らした。大体メイコとはお前のこと相談する仲なんだよ、言っちまえばお前だけだよ気づいてねえの。やっぱコイツ頭ズレてるよな間違いなく。

「はっ、もしかしてめーくんのほう? めーくんのほうだったっ? ごめんね、俺あーくんの趣味分からなくてっ」


 そしたらもっとズレだしたカイトがそう言う。もう呆れて物も言えません。

 メイトのどこがいいのかちっとも分からないっての、カイトのほうが瞳も吸い込まれそうなくらいに綺麗で、髪も女みてえにサラサラで、声も透き通るみてえで聴いてて飽きないし。メイトはあれだろ、マスターにべた惚れだろ? もしかしてそれも気づいてねえのか、ほんとに頭イカれてんじゃねえの。お前の目は節穴ですか。


「あーもういいばか。お前はアイス食って黙れあほ。アイスの食べすぎで死ね」

「なっ、あーくんひどおおおい」

「お前がなんにも気づいてないからだろ?」

 はーあ、と溜め息を吐けば目的だった図書館は目の前だった。

 カイトみたいにキラキラ光る目をした餓鬼が図書館の前にたくさん並んでいて、それにカイトは再び目を輝かせるのだ、ほんとに、餓鬼っぽい。


「……ねえねえ、あーくん!」

「なに? 発声練習忘れた?」


 ――そう、俺達は図書館の前で歌を唄うために今日、朝からやって来た。


 なんで図書館の前かって言うのはよく分かんねえけど、前に俺とカイトが二人で図書館に行った時があって――ま、それはカイトが本好きだから、仕方なく俺が連れてってやった時なんだけど――んで、そこでカイトが本を借りようとした時だ。急に受付のお姉さんががしっとカイトの手を握って(俺が止める暇もなかった、俺だって手握ったことねえのにどんだけ空気読めねえんだよあの受付!)、「ファンなんです!」と言いやがった。

 ワケが分かんねえだろ? 大体、俺は毎日図書館に通ってるのに一回もあんな風に声かけられたことないぜ? 事務的に「返却日は何日ですー」とか言われるのみ。や、別に俺の魅力に気づかないばかのことはどうでもいいんだけど。俺はカイトに誉められればそれだけでいいし。

 ――まあ話を戻すと、その時受付がこう言いやがったんだよな、「子供達に歌を教えてくれませんかぁあ!」もう興奮しきった表情と声色だったから俺は隣で呆れてたんだけど、「い、いーともー!」とカイトが返事したから吹き出した。あとで訊いたら結構無意識に返事してたらしいんだけど、餓鬼好きなカイトは楽しみだなあ、なんて笑ってたワケで。それが今日だったってワケ。

 最初はちょっと怪しいかとも思ったけど、「ハバネロとアイスが出ます!」ってことだから俺もカイトも快く承った、ってことだな、うん。マスターには怒られたけど。


「……ちょ、聞いてる? あーくん?」

 そんな風に俺が少し前のことを思い出していたらワープでもしたみてえに目の前にはカイトのドアップがあって、思わず一歩後退する。なんだよ、急にくっついてくんな。


「お、おう?」

「よかったー。あーくん意識飛んだのかと」

「飛んでねえよ、失礼な」

「……ねえねえ、あーくん」

「あ?」

「子供、欲しいね、んふふー」

 そうしたら、カイトは弾んだ声でそう言った。は? なにこいつ誘ってんの? てか俺とお前じゃ子供はつくれないんだけど? ――で、あとで訊いてみたらマスターに子供ができたらいいのに、って意味だったらしい。


 ……ほんとにコイツ、誰かどうにかしてください。






を返


( 一回大きく跳ねてしまった心臓を返してください、この鈍感。 )




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腐女子と生活してるんだがなんか質問ある?な二人。

20091027/ゆゆむら

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