おとぎ話の中みたいな内装に一目惚れして働いているここも、確かに少し対応に困るお客さんもいるけど、慣れれば評判ほど悪くなかった。 寧ろ毎日お菓子とドレスとお姫さま達に囲まれているようで悪くない。ボスに働きたいと話したら「お前がいいならいいけどさ、あんま無理すんなよ? お前だって可愛いだろうが、黙ってれば」とか言われて、とりあえずまだ完治していない傷を掴んであげたけど、それが彼なりの心配だったとやった後気付いて後悔した。プライドが許さなかったから謝らなかったけど、素直に一度だけ頷いてみた。だってわたしだって立派な大人だし、少しは自由に羽ばたきたいのも分かってよ。わたしにはそんな羽はないのだけれど。 そんなことを思って苦笑すればドアからちらりと覗くレース。そこからふわりと広がったスカートが見えて思わず微笑んだ。やっぱりお洋服って可愛い。 「お帰りなさいませ」 いつものように挨拶をしたらいつも見る顔で驚いた。 来るなら来ると言ってくれればいいのに。 「リーちゃーん!」 「あら、優? どうしたの」 口を開けばやっぱり聞き覚えのある声で、しかももう一人隠れているのに気付いた。 ちらりと見える赤い頬に、黒くて長い尻尾の先の眩い黄色。たてがみみたいな黒髪と所々の金に似た染めたより全然綺麗な自然な黄。きっと、とわだ。こちらを何度も確認している姿に微笑んで、優に訊いた言葉を取り消した。 「合コン、かしら?」 「リーちゃんってば頭いいね! そうそう、合コンー。メンバー足りないとか言われちゃってさ。急なんだけどリーちゃん今日すぐ出れそ?」 「優達が大人しくしてれば、出れるわよ。そうね、久しぶりにみんなでわいわいしましょうか。男メンバーには適当に食べてもらって」 くすくすと笑いを零せば優がケラケラ笑って、それからずい、ととわが部屋に入ってきた。そのままの勢いでわたしの前まで来れば真っ赤に染まった頬をこちらに見せた。でもきっと、とわがしたいのはそうじゃない、きっと。 「あ、あたしは! あたしは行かねぇからな! 勘違いすんなよ!」 そう言われたからにこりと微笑んでやれば、う、と息が詰まったみたいに声を出して、しかしそれは本当みたいで咳き込んだ。 「大丈夫よ、酒はいれないから。とわには」 「えー。とわちんのあれが面白いからみんなが――」 「あれってなんだ! あたしは知らないからな!」 「とわってほんと、彗に似てるわよね」 「似てるよねー」 「姫と一緒にすんな! あんな顔に出ねぇよ!」 「え?」 優が思い切り信じられないという顔をしたからとわの顔が歪んだ。それにくすくすと笑って、いつのまにか好奇と多少の羨望みたいなものを込めた視線が集まっていることに気付く。わーわー言い争っている二人を見て微笑んだ。でも、たまにはこういうのもいいと思う。だって店長さんも二人が来ると表情が綻ぶし、大好きだって言ってた。きっとうちの家族にはそういうよさがあるんだと思う。つくづく微笑ましい。でも大好きだ。 本当の家族だとかそういうのはこの際どうでもいい。とわ、には関係があるのかもしれないけれど。――なんて思って笑った。だってみんな、二人には協力的だった。 とわもボスも、もちろん彗も、顔に出やすいのはみんな似ている。きっとわたしも優も、焔だって感情がみんなには手にとるように分かるんだろう。 「そうだ! 姫も呼――」 「呼ぶな! お願いだから呼ぶな!」 「なにそれー。それがお願いする態度かな、とわちん」 「うっせ! ……別に絶対来ねぇからいい、もう」 「なによう、リーちゃんが一言言えば絶対来るよー。ねえ?」 「え? ああ、そうね? だけど、ね――」 いい加減収拾がつかなくなりそうで苦笑したわたしは三度手を叩く。 「さ、お客さんも困ってるわ。裏で待ってて」 「え? そこの席でリーちゃん見てちゃだめ?」 瞳を潤ませて見つめられる。返答にすごく困る。近くにいた先輩に声をかけようとすれば『そっちのほうが絶対いい! 売り上げ的にも雰囲気的にも華的にも!』という目を向けてきた。仕方なく肩を落とす。 「仕方ないわね。少しの間だから大人しくね」 「はーい!」 「あたしはまだなにも――」 「とわちん、大人しく、ね?」 その優の一言になにも言えなくなったとわが優に半ば引きずられ椅子に座ると同時、お客さんがその周りに寄った。それを静かに抑圧して、開いたドアに振り返った。 「お帰りなさいませー」 忙しく話している二人の、そのよく動く口にすら愛らしさを見つけて、なんだかお母さんみたいだと、ふと気付いた。まるでお母さんみたいだと思ったのに、自分のプライドとかじゃなくて、純粋に、こんな子供だったら楽しいなと思った。 お菓子 みたいな 密室 −−−−− 女子(+女装美人さん)のはっちゃけた雰囲気がたまらないです。 ちなみに、李亜ちゃんはコスプレ喫茶勤務です。 20090204/ゆゆむら |