俺が見ている現実が煙だったら吹き飛ばせるのに…。









突然吐き出された言葉に付いていけず、首を傾げる。
辺りはもう真っ暗で一つの街灯が俺とキャプテンを照らしていた。
サッカーに夢中になってしまい、キャプテンが家まで送ってくれていた。
泣きそうな顔で俺を見るキャプテンは綺麗だった。
俺はキャプテンが泣いている時が一番綺麗に見えた。
俺と違ってふわふわな髪を揺らす。

「キャプテンは今が嫌いですか?」
「あぁ、嫌いだ。」

真っ直ぐな目線でこちらを見られると心臓が大きく動いた。
まるで俺を嫌いだと錯覚してしまいそうだ。

「俺はこんな縛られたサッカーじゃなくて本当のサッカーをお前としたかった。」
「キャプテン…。」

そっと手を握ると悔しさからか震えていた。

「俺はそれでも今が好きです。」
「天馬。」
「だって、こんな世の中じゃなければ、キャプテンと同じチームになることも一緒にサッカーすることもなかったんですよ?」

そう、俺はサッカーは好きだがお世辞にも上手いとは言えない。
二軍に入れるかもくらいだ。
それが部員も急激に減り、残ったのはたったの12人。
本当は嬉しかった。
憧れの雷門で一軍として戦えることが。

「だから言わないでください。今が嫌いなんて…。」

俺は汚い人間なんだ。
本当のサッカーができなくて苦しんでいるのに、キャプテンとサッカーができるだけで喜んでいる。
それはキャプテンが好きだから。
キャプテンが笑う姿も泣く姿も全部好き。
ピアノ弾く姿もサッカーする姿も好き。
だから、キャプテンの口から吐き出される「嫌い」という言葉は嫌い。
俺の心が汚いとバレてしまうから。
胸がチクチクと痛い。
俺がこんなに好きなのにキャプテンは気付いていない。

「すまなかった。」
「いえ!俺も偉そうにすみません。」

キャプテンを見ると笑って俺の手を握り返してくれた。
俺をどんな風に見ているのだろう。
可愛い後輩?
困った後輩?
全部嫌。
俺をちゃんと見てほしい。
矛盾してるのはわかってる。
それでも、汚い俺も好きになってほしい。

「どうしたんだ?黙り始めて…。」
「いえ、多分疲れちゃっただけだと思います…。」
「そうか…。じゃあ早く帰ろうか。」

手を引いて前を歩くキャプテン。
手からは温もりを感じる。


この現実が煙なら俺はキャプテンの息で吹き飛ばされたい。
だって、今の俺はこの現実から産まれたのだから。
きっとキャプテンの息は綺麗なんだろうな…。



まだ消えたくないけど。
キャプテンが望むなら俺は煙になるよ…。






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