最初は下手くそなやつだと思った。


その次はうるさいやつだと思った。


三度目は嫌いなやつだと思った。


四度目は



涙空



「キャプテン!」

学校の屋上。
俺はいつも休み時間になると大抵ここにいる。
それは霧野や三国先輩が一緒の時もあれば、一人のときもある。
大抵は綺麗な空だなと思って見上げることが多い。
先ほど呼ばれたほうを見るとそこには天馬がいた。

「キャプテン、ここにいたんですね。」

へへ、と笑いながらこちらに来る天馬に思わず笑みを溢す。
癖の強い茶毛が風に揺れていた。

「何か用事があるんじゃないか?」
「あ…。」

用事がなければ来ないだろ?
まぁ、一緒にサッカーしようという用事だと思うがな。

「用事が無いと来ちゃいけないんですか…?」
「え…?」

予想外で思わず間抜けな声を出す。
ちょっと紅く染めた顔がこちらに向けられる。

「いや、ただサッカーの誘いかと思ってな。」

すまないと頭を撫でてやると天馬は笑っていた。
俺の隣で肩を並べる。
一年の差は不思議なことにこれほど身長に出るものなのだろうか。

「すごくキャプテンに会いたかったんです。」
「なんだよ、それ。」

また空を見れば、真上には雲がなかった。
校庭からは楽しそうに遊ぶ生徒の声が聞こえた。

「この学校て広いですよね。」
「そうか?」
「キャプテンを探すのにすごく歩きました。」

寂しそうに笑う天馬を横目で見る。

「なんとなく、キャプテンが泣いてる気がして。」
「不思議なことを言うな。」

本当に不思議なやつ。
こいつのサッカーに、こいつに、どんどん惹かれていく。

「そう思ったらいてもたってもいられなくて、探しにきちゃいました。」

へへと笑い、手すりに寄りかかる。

「キャプテン…。」
「ん?」
「手…握りませんか?」

視線を空から天馬に変えると天馬が泣きそうな顔をしていた。

「天馬は嘘つきだな。」
「どうしてですか?」
「だって、泣きそうな顔をしてるのは天馬じゃないか。」

そっと手を握ると天馬の手の熱さが伝わってきた。

「それは…」



「キャプテンが泣いてるからですよ?」



風に邪魔をされそうなほど小さな声が耳まで届く。
同時に天馬は反対の手で頬に触れると、はじめて自分が泣いていることに気付いた。

「淋しいなら、呼んでくださいよ…。」
「別に淋しくは…。」
「俺じゃ支えになりませんか?霧野先輩みたいに幼なじみでも友達でもないです…。でも、キャプテンとずっと居たいです…っ!」
「天馬…。」

泣きはじめる天馬の頭を撫でる。
ぼろぼろと落ちる涙はまるで自ら光っているようにきれいだった。

「俺だって天馬とずっと居たい…。」
「キャプテン…。」
「だって、俺は…っ!」

思わず言葉を飲み込む。
何を言おうとしていたのだろう。
だって、おかしいだろ?

「キャプテン…?」
「すまない。忘れてくれ。」


天馬のことが好きだなんて…。


遠くで終鈴の音が聞こえた。

「鳴っちゃいましたね。」
「あぁ。」

握った手を離すと淋しい気持ちになった。
あながち、天馬の言うことも間違ってないなと思いながら、先を歩く天馬の背中を追いかけた。



今はもう、大切なやつに変わっていた。



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