折原臨也くんは中々凄い人だった。
 いや中々どころではない。最早預言者ではなく彼自身が教祖様のようだった。
 彼は随分と外見が整っている為、取り巻きの女の子は大勢居てまるで宗教のようだったのだ。
 そして私が折原臨也くんを意識し出した途端、彼が平和島静雄という男子生徒と連日激しい喧嘩を繰り返していることに気が付いた。今迄気付かなかったのが不思議なくらいその喧嘩の規模は派手で大きかった。彼らが喧嘩する度に最低十人は怪我を負い、最低十枚はガラスが割れた。つまり学校側からしたら相当迷惑な存在であることは確かである。
 加えて、折原臨也くんは野球賭博の元締めをやっているらしい。立派な犯罪だ。なんだか実感が湧かないので、私が抱いた感想は、「なんか凄い」くらいのものだった。私が何故それを知ったかと言うと単純に、彼のお世話になった生徒の話を盗み聞きしてしまったのである。

 初めに抱いた<預言者イザヤ>のイメージとは随分かけ離れた<折原臨也>くんの像が、私の中でどんどん完成されていった。
 ──多分危ない事が好きなんだろうな。
 あの、化け物のような力を持つと噂されている平和島静雄に自ら喧嘩を売っているらしいし、おまけに校内で堂々と犯罪行為までやっている。

 なんか、すごい人。私なんか、きっと一生関わることも無い。

 そう思ったのはつい昨日のことだ。なのに、この展開はなんなんだ。頭が追い付かない。

「よろしくね、竜宮さん」
 寒気がするほど整った顔をした折原臨也くんが、私に笑顔を向けていた。
 今は生物の授業中で、実験の為に二人一組の組を作らされている。それで、何故だか折原臨也くんが私の元へやって来たのだった。
 近くで見ると、彼のお顔は最早神聖さを感じるほどの美しさだった。いや、私があまり美男子を生で見たことがないからそう感じるのかもしれない。
「な、なんで」
 私のところに来たの。なんか周りの女子からの目線が痛いんだけど。そう続ける前に、彼が出した右手で私の言葉は制止された。私はつい、ぐ、と黙ってしまった。勝ち誇ったような表情をされたので少し悔しくなった。
「先生が男女で組作れって言うからさ」
「は?」
「仲良く成る為だって、ほら、クラスも新しくなって知らない人ばっかりでしょ」
「はあ」
「俺は折原臨也」
 よろしくね。
 なんだかわざとらしかった。自分が有名なのを解っていて、あえて今更自己紹介などするところが。
 笑顔を貼り付けたまま右手を差し出された。これは握手しろということなのだろうか。礼儀として、私はその右手を自らの右手で軽く握った。
「私は竜宮レナです、こちらこそよろしく……」
「あ、敬語要らないよ。同い年なんだしもっと気楽にしてよ」
「はあ……」
 指が触れた途端、ぎゅっと強い力で手を掴まれ、上下にぶんぶんと振られた。なんなんだこれ。
 それにもっと気楽にと言われても、何だかカウンセラーと話をしているような気分だ。落ち着かない。
「じゃ、実験しよっか。竜宮さん」
 その笑顔でその台詞はやめて欲しい。まるで何かの人体実験の被験者にでもなったようだ。私が顔を歪めると、折原臨也くんは満足そうに笑った。
 趣味が悪い。


20130102