新学期早々、HR委員になってしまった。小学校で言う学級委員のことだ。私がほかの生徒と比べ多少真面目だからと言って先生は嬉々として私を推薦し、当然他にやりたがる生徒が居る筈もないので、すんなりと女子は私に決定した。男子のほうも、私と同じように先生に推薦された哀れな眼鏡男子に決定した。眼鏡掛けてるからって、安易すぎる。
「じゃあHR委員は係の表作って帰ってくれなー。はい、解散」
 面倒くさい。適当に用事があると言って眼鏡の彼に任せて帰ろう。そう思って口を開いたら、なんと先手を取られた。
「竜宮さん、ごめん! 俺塾あるから、今日は残れないんだ」
 彼は顔の前に右の掌を出して、「ごめんごめん、じゃ、頼んだ」と言いながら笑って去って行った。おかしい。先生、これ判断ミスです。彼全然真面目じゃありません。
「……はぁー」
 やるしかない。

 黒板を見て思わずため息が漏れた。
 クラス全員何らかの係に就かなければならない為、そこには四十人の名前が担任の汚い字で書かれている。さすがに四十人分も係は無いから、ペットも居ないのに「生物係」とか無意味な役職も存在する。苦し紛れすぎる。仕事が無いから、毎年生物係は倍率が高いらしい。そんなこの係に成った、幸運な生徒は一体誰なのだろう、とふと黒板を探した。

 折原臨也

「…………?」
 思わず首を傾げた。こんな人自己紹介の時居ただろうか。珍しい名前だから聞いたなら印象に残っているはずだ。いや、居なかった。そして何て読むのか解らない。
「りんや?」
 ──んなわけない。
 解ってはいても声が出た。固有名詞なんだから違う読み方だろう。考えても見当が付かないので、出席番号順に並んだ名簿を教卓から引っ張り出した。
 そして、これまた予想外の名前だった。
「おりはらいざや」
 本当に珍しかった。これって日本に一人しかいないんじゃないか?
「イザヤ?」
 どこか聞いたことのある響きな気がした。考えてみると、イザヤというのは預言者だと思い至った。
 特に聖書やキリスト教に詳しい訳ではないが、それらは頻繁に現代の創作物にに登場する名前だ。とある小説で少しだけ名前を見たことがあるだけだった。だからどんな人物なのかは知らない。
 それにしても彼の両親は凄い。もしかするとキリシタンなのかもしれないが、まさか<イザヤ>に漢字を当てるとは。発想が凄い。
 こんな名前なんだから、カリスマ性のある人間に成長して欲しかったのだろうか。折原臨也くんがどんな人物なのか、明日から少しだけこの教室に気を配ってみようと思った。


20130102