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私の様子を見た丸井は溜め息をついてからボソリと呟いた。
「やっぱか。他に理由ねぇもんな。」
落ち込む丸井に覗きこんで意を決して話した。
「あのね、丸井。 私ね、弦一郎の事が好きだし、マネージャーの仕事も皆のテニスも大好きなんだよね。 弦一郎の傍にいれない事も、マネージャーの仕事が出来ない事も… 苦しくて苦しくて泣きそうだよ?
でもさ、その一番の責任者である幸村くんに言われたなら私は消えるよ。
今回の件は、私が悪すぎたんだから。 丸井まで巻き込んだ罰なんだと思う。 弦一郎の事も頑張って幼なじみって意識するようにやってみる。」
言いたい事だけ言って、丸井の反応を待つ。 頭をくしゃりと掻いた丸井は"だー!!"って叫んでから私の肩を掴み視線を合わせてから口を開く。
「名字はそれで本当に良いのか?」 「うん。」
「真田が渚と付き合っても?」 「うん。」
「マネージャー出来なくても?」 「うん。」
「決意は揺るがねぇ?」 「うん。」
「…俺と本気で付き合って?」 「うん。
…ん?え?!」
丸井の言葉にずっと肯定で返していけば
つい、最後の言葉にまで何も考えずに頷いてしまった。
いや、正直な話。
私は丸井に惹かれ始めてるんだろうと思う。
だから弦一郎をただの幼なじみと意識する意味でも、丸井への気持ちの発展での意味でも私は問題ない。
むしろ嬉しいが…。
「本気なの?」 「あぁ。本気で好きだ。 今までチャラチャラ遊んでたけど、本当はずっと好きだったんだぜ?」
「え!?え?いつから?」
顔を赤らめる丸井につられて私まで顔が紅潮する。
お互いに俯きながらのギクシャクしたもののドコか居心地の良い会話。
「秘密。」
「何、それ。ずるい。」 「良いだろぃ。 つーか、ちゃんと付き合うんだし下の名前で呼べよ。 俺も名前って呼ぶからさ。
後本当に付き合うって俺のファンの連中にはアイツから言わせるよ。」
テンポ良く話を進める丸井の"アイツ"で浮かんだのは、以前一度だけ話をした宮本さん。
確かに彼女は陰湿な事をしないだろうけど、だからこそ今回の事を納得するとは思わない。
けれど丸井を信用して様子をみようかな。
なんだかんだと私は丸井といるとなんだろ…落ち着くって言うのかな?
うん。
少しずつ丸井を意識していこう。
私なりのスピードで。
end...
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