長編 | ナノ

39


幸村くんの揺るぎない真っ直ぐな瞳は丸井ではなく遠く離れた私に向けられている。

「ありもしないこと?
何だよ、それ。」











酷く、冷たい声だった。









誰が発したか分かるのに時間がかかった。

丸井の声だった。

















「…ふぅ。
丸井、君は知ってるんだろう?

渚が名字さんに嫌がらせをしたとかうデマ話。」

私から反らすことのない
その、凍てついた瞳は人を殺せるんじゃないかと思う。




私はその瞳から目を反らすことどころか身動き一つ取れない。


















「さあて…な。
そんなデマ話は知らないぜぃ?
俺が知ってるのは真実の話だからな。」

丸井も負けず劣らずの声を発する。


ここからは見えないが
多分丸井の瞳も冷めているのだろう。

その場にいる恐らく桜井さんを呼び出したであろう女子どころか
桜井さんですら幸村くんと丸井を怯えた目で見ていた。











…私も例外ではない。
















「つーかさあ、さっきから名字を睨むのやめろよな。」

そう言いながら上手い具合に幸村くんと私の間に立ち、幸村くんの視線を遮らせた。










…その背中はかなり頼もしい。

「あ、の!
二人共…、止めて下さいっ。
私のせいで喧嘩しないで下さい。


幸村部長、やっぱり何か私が先輩に気付かないうちにしちゃったんですよ…。

でなければ、そちらの先輩方も丸井先輩もこんなに言わないはずです。」



桜井さんは涙を浮かべて幸村くんの服の裾を掴んでそう話した。

話終えてからは顔を俯かせ表情を隠した。








あぁ、本当に真っ直ぐな子。
私が黒く汚れてると分かりやすくしてくれる子。



だって、ほら。
幸村くんの桜井さんを見る目は愛しい人を見る目。









女の子たちは多分だけど心が揺らいだはずだ。
困惑しながらヒソヒソと何やら三人で話ている。


実際嘘っぱちの話。


その上、桜井さんの言動が重なって…。










あ、駄目だな。


泣きそう。


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -