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部活が終わる少し前まで部室の死角になる隅で仁王の胸元を借りてずっと泣いていた。
途中、桜井さんがさがしている様子だったが何故か見付からずにすんだ。
多分、ファンに絡まれていたのだろう。
私は部活が終わる寸前に目を冷やしてなんとか腫れないようにした。
仁王はずっと黙ったまま傍にいてくれて、かなり意外な仁王を見たなと思った。
部活を終えたレギュラー陣が揃って部室に戻って来た。
少しして桜井さんも戻って来て、私と仁王の存在に疑問を浮かべていた。
しかし桜井さんは疑問よりも暗い顔を無理に笑顔に変えるので必死な様子だった。
「仁王、お前は途中から見掛けないと思えば…!」
あからさまに怒りをあらわにした弦一郎が仁王に近付こうとした。
殴られると直感して反射的に間に割って入った。
「弦一郎!ち、違うの。 私が部室で具合悪かったから付き添ってくれてただけなの。
ごめんなさい、桜井さん。 全く働かないで。」
弦一郎が腕をおろしたのを確認してから 視線を申し訳なさそうに桜井さんに向ける。
私の言葉にレギュラー陣が怪訝な表情にかわった。
桜井さんは困った表情を隠そうと無理矢理笑っていた。
「いえ!そんな、私も途中友達が来て少し離れてましたから…。 それより体調は大丈夫なんですか?」
"友達"
とは、多分ファンの子達だろう。
やっぱり呼び出しされていたようだった。
「全くだ、何故体調が悪い事を言わん。 お前が体調崩すなどそうそうないのだから、明日の朝練は休め。」
弦一郎が続けざまに口を開いた。 怪訝な顔をしてるが多分、心配されてる。
幸村くんは弦一郎の言葉に頷きながら「うん、体調が悪いなら朝は絶対休むこと。 昼からの練習試合は出てもらうけど。」と何時になく真剣に言われた。
朝練はそこまで仕事がないし、桜井さんもいるから言葉に甘えて明日は遅れて行くことにした。
承諾の意を伝えてから ふと、丸井が視界に入った。
丸井は歪んだ表情で仁王を睨んでいるような感じだった。
仁王も仁王で少し馬鹿にしたような笑いを含んで丸井を見ていた。
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