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狼狽えながら悩んでいたら仁王が近付いて来た。
「噂じゃ、お前さんが渚にいじめられちょると聞いたが?」
あ、その話もあった。忘れてたけど。
そうだ。
丸井と仁王の互いの女同士は繋がっているんだった。
どうしよう。 そんな話は全くの嘘でカモフラージュって言うの?
そんな最低な行為を仁王に私が言うの?
もし、弦一郎に伝わったら――――…。
そんなの嫌。
絶対嫌。
「いじめられちょるんか?」
でも、もう一度繰り返して真剣な表情で尋ねられた。
あぁ、嘘はつけない。
そう悟った。
素直に言うしかない。
「ううん、いじめられてないよ。
丸井が、私をファンから守るためについた……嘘。
私…私ね、その話を丸井から聞いてファンが桜井さんに何をするかわかってた…。
なのに…最低っ…よね。」
泣きたいのを堪えながら 仁王の顔が見れず俯いた。
仁王は私や桜井さんに仲間意識を持っていて、だから軽く手を出さないのを知っている。
仲間が仲間を陥れいれるのを嫌う、と思うから。
「ほぅか。 お前さんがそれで本当に危害を加えられてないなら、俺は良い。」
頭が白くなりそうだった。
冷めた目で罵られると思っていのに もう仲間じゃないからとマネージャー出来ないと思っていたのに
実際仁王の口からは甘い言葉で表情は柔らかかった。謎。
「なんで? わ、私は自分のために仲間である後輩を、犠、牲にした…のに…。 最低、なんだよ? 私は最低なの。
…だから… だから弦一郎にっ…っ…。」
自分でも分からないくらい突然感情が爆発した。
泣きそうになるのだけは堪えたけど、結局最後までもたずに泣いてしまって その場に座り込んだ。
「…お前さんが前々からファンにやられとるん、知っとった。 俺は大事な名字が無事ならなんでも構わん。」
仁王の言葉はなんとなく頭に入ったが今は自分の感情を抑えるのでいっぱいいっぱいだった。
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