09
部活が終わって、弦一郎と桜井さんが共に帰る姿を部室に背を任せて呆けて見ていた。
<では行くぞ。> <待っ、待って下さい先輩!>
私が好きな人が可愛い女の子と二人で帰る。
こんなにも嫌悪感を抱くものなんて…。
「…馬鹿。」
ぼそりと呟いてみた。
立っていられなくて、しゃがみこみ下を向いた。
ぼと…ぼとぼとぼとぼと。
地面に影が出来たと思った瞬間に空から小さなお菓子の包みがたくさん落ちてきた。
見上げたら赤い髪をした丸井。
「…何してるの?」 「元気出た?」 「え?」
「お菓子見たら元気出ねぇ?」
いたって真面目に言う丸井はどうやら自分以外も本気でお菓子で元気が出ると思ってるらしかった。
…ちょっと馬鹿かも。
「…ちょっとだけ、出たかな。」 「ちょっとってなんだよ、俺のお菓子は他のより格別だぜぃ?」
自分でばら蒔いたお菓子を拾いながら話す。
確かに丸井が食べるお菓子はどれも美味しいけど。
「もう帰ったのかと思ってた。」 「ん?ちょっとな。 なあ、この後暇?暇だよな。」
言葉を発してから、お菓子の中からチョコを一つもらって口に入れた。 抹茶味のチョコで少し苦みがあった。
ちらりと丸井を見れば目が合って、丸井は決めつけたような言い方をしながらガムを膨らませた。
「やっぱここのケーキは美味いぜぃ。」
目の前の彼はにこにこと幸せそうにチーズケーキを口に入れた。
私は丸井に連れられ学校近くのケーキバイキングに来た。
これで彼は二桁になるケーキを食べたことになる。 つまりホール一つ分以上。
「良くもまあ、それだけ食べて太らないよね…。」 さすがは全国区レベルのテニス部レギュラーって感じ?
「んぁ?俺昔から太らねぇ体質だからなー。 つか、名字もっと食えよ。」
「…お腹苦しいんだってば。」
なんだかんだで私も4つほど食べたが、さすがにこれ以上は限界。
丸井はつまらなそうに別のケーキを取りに行った。
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