接近
始まってからしばらく経ってから、跡部君たちがいる方面が少しざわついた。
理由は明白、ジローが宣言通りに私の方へと近づいて来たから。
周りの視線が痛々しい中で、ジローはそんなもの知らないとでも言うように しれっと3日前のように私が膝枕をする形で横になった。
「お待たせ、えっと…名前ちゃん?」 「へ?!あ、はい!」
やんわりと笑ってから、初めて名を呼ばれてびっくりした。 名字さえも知らないと思っていたのに、まさか下の名前で呼ばれるなんて想像にもして無かった。
「君の膝の寝心地、俺、好きだよ。」 「こ、光栄です。」
気持ち良さそうにまぶたを閉じながらそう言われて体温が急上昇した。
「なあ、連絡先教えてくんね。」 「っ、え?」
寝たとばかり思い込んでいたから、かなり油断していた私には小声でジローが言った言葉を理解するのに間があいた。
アドレス交換をしたいんだと解釈しても現実味のなさから呆然とジローを見たまま固まった私をよそにジローは既に携帯を手にして、いつでも赤外線を送受信出来る体制にしていた。
微動だにしない私を不思議に思ったのか不安そうな顔をして嫌なのかと尋ねて来たジローに慌て否定して、携帯を出して準備する。
無事に交換し終えた画面を、にやけながら見て でもジローが目の前にいるんだと思って、にやけ顔を止めて携帯をしまった。
アドレス交換は私的には嬉しいとかレベルを余裕で突破してるけど、ジロー的には交換する必要性が全くないのに何故したのかが引っ掛かる。
「あ、の…なん、でアドレス…?」 「おめーの事気に入ったからじゃ駄目?」 「ととととと、とんでもない!です。」
勇気を出して聞いてみると胸踊る一言を返されて全身自分の身体じゃないと思えるくらいに異常な事になっている。
火傷をしそうな体温とか 破裂をしそうな鼓動とか 湯気を出そうな赤面とか
色々と容量オーバーな私とは裏腹に、今度こそ気持ち良さそうに眠るジロー。
授業を終えるチャイムが鳴ると即座に目覚めて、夜連絡するからと言うセリフを残して出て行った。
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