お題 | ナノ
いつだったか。
彼女に惹かれたのは。
いつだったか。
彼女が自分じゃない彼と付き合ったのは。
「私、雨宮梅は念願叶って付き合う事になりました!」
幸せそうに、微笑み放った言葉は俺には凶報でしかなくて。
でも彼女からしたら彼女にも俺にも吉報で。
「幸村くんが病と戦って、無事退院出来て良かった。
私ね、幸村くん見て頑張ろうと思ったの。
まさか、本当に付き合えるなんて思ってもなかったけど…。」
聞きたくない事が一つ、二つ…。
俺には苦痛でしかない報告を彼女は一生懸命俺に伝える。
何故彼女は俺の気持ちに気付かないのか、何故彼女は他の男のものになったのか。
「そうなのか。
良かったじゃないか、幸せになるんだよ?」
何故俺は笑っているのか
何故俺は彼女を応援しているのか
馬鹿なんだ。
彼女を取られないように気持ちを言わなかった俺も
俺じゃない男のものになった彼女も。
賢かったのは只一人。
彼女をものにした男一人。
「へー…幸村 精市くんって言うんだね。
名字も名前も珍しいね!」
初めて会った彼女の笑顔が可愛いと思った。
「うー、私料理とか女の子らしいこと駄目なんだあー」
家庭的そうな彼女の意外な一面を見て興味を持った。
「部長さん?
わあ大変そうだね…でも、好きなことで良い役柄になれて頑張れるね。」
彼女の励ましが何よりの励みになった。
「幸村くん!
病で入院って聞いて…あの…」
彼女が駆け付けてくれたことが嬉しくて。
「退院!?
やだ、嬉しくて涙出ちゃう…」
自分のことのように喜ぶ彼女が愛しくて…
好きだ、好きだ、好きだ。
気付いた時には既に…手遅れ。
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