お題 | ナノ
「やぎゅー、わたしの事好き?」
彼女のこの問いは
おはようと、またねの変わりに毎日必ず聞かれる。
だから決まってこういう。
「もちろん好きですよ。梅さんは?」
「誰にも負けないくらい愛してる、」
このやり取りをしないとダメなのだ。
このやり取りをしないとお互いに不安で押しつぶされてしまうのだ。
・・
彼女は柳生が好き。
・
俺は彼女が好き。
どう足掻いても変わらない気持ち。
ならばせめて一時の逃避くらい許されるはずだ。
「おや、仁王君。
また変装をされているのですか?」
「…仁王君。」
目の前に現れたもう一人の自分。
彼女よりも目の前の自分よりも先に口を開いた。
そうでもしないと、全て崩れ落ちる。
目の前の自分は呆れたような顔で名を読んだ。
しかしそれ以上は何も言わずに別れた。
これもある意味見慣れたものだ。
もう一人の自分と別れてしばらくして、
「やぎゅー。
最近仁王君もやぎゅーもやぎゅーでいるね。」
といつもとは違う発言に一瞬だけ動揺を隠せなかった。
「そうですね。
またいつもの遊びの一貫でしょう。」
「そっか、そうだね。」
結局彼女はそれ以上何も言わなかったし
次の日からも同じ日々が待っている。
たまにそんな日々に虚しさを感じる事もある
しかし俺はもちろん、もう一人の自分も彼女も
誰一人としてその虚しさを追求する事はないのだろう。
僕を映さない瞳(それでも構わないと思うなんて)
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