お題 | ナノ






「梅ちゃん。
大きくなったらお嫁さんになってね?」
「およめさんになったら、せーいちくんは梅だけのおーじさまでいてくれる?」
「もちろん。
僕だけのお姫様、約束の口付けを…。」













幼い頃。
どこまでも優しかった、王子様のような大好きな幼なじみと将来を誓い合い、マセた私たちは口付けまで交わした。
















あれから10年近く経ち、私だけの王子様は皆の王子様となった。


道を歩けば人を助け逆ナンされ
学校に行けば文武両道を極めてファンクラブがあり
休みの日には部活動に励み名声と人気を高める。











私の王子様のような幼なじみ…幸村精市は今や私とは違う世界に住む人間。

漫画のように家が隣ではなく、仲良く登下校もしないし、ましてや連絡も取り合わない。
本当に形だけの幼なじみとなってしまった。


まあおかげさまで嫌がらせとも無縁にだったけれど。















結局
皆の王子様である幸村君と、最後に話したのがいつかすら分からないくらい関わりを持たずに
高校3年生の3月…卒業式を迎えてしまった。









幸村君の周りには終始大人も子供も男の子も女の子も集まっていた。














卒業式の今日は幸村君の誕生日でもある。
だから思い出したのだ。

今も淡い気持ちを持つ私は幼かった頃に交わした意味のない約束を。




でも、いつまでも夢見る少女では居られない。
今日を機にこの古びた気持ちを捨てよう。















「梅。」
「っ、ゆ、きむらく…」

そう思って帰ろうとしていたのに、幸村君は優しい声で呼び止める。
昔と変わらぬ名前で。



「随分他人行儀だね、まあ良いんだけど。」


乾いた笑い声が響き、そして――――

























「は、…え?」

あの頃よりも深い深い口付けをされた。
意味が分からずに固まった私をそのままに話を続けた。














「ずっと、いや、あの頃よりも気持ちが募っていって…
今日をひたすら待ち望んでいたんだ。

結婚を前提に付き合って下さい。」

「うそ…」





思わず零れた私の呟きも否定して、抱きしめる好きな人の告白を断るはずなんてなかった。