「なんでなんスか?
俺の何が足りなくて、」
「足りないとかじゃない。
強いて言うなら欠落のない君だから嫌い。」
「っ」
この男は、運動神経が凄まじく、中学時代はバスケ界でキセキの世代と言われ全国に名を馳せ
顔が良いから中学時代からモデルもしてて、
高校では強豪と言われる海常でレギュラーをはる。
その名を黄瀬と言う。
つまりは向かうところ敵無しの完璧な王子様。
私はそういう人間は苦手を通り越して嫌いだ。
なのにこの男は、どこが良いのか私を好きだと付き合えと言う。
完璧な王子様が欠落だらけの凡人に何を冗談言ってるのかと思っていた。
罰ゲームなり何なり、一度付き合えば満足してすぐに別れを切り出すものだと思っていたし
話を切り出すタイミングが掴めないだろう黄瀬に煮えきれずに私から別れを切り出してみても別れてくれない。
良く良く話をしていけば
黄瀬の気持ちはどうやら本気で、てか、本気も本気で非常に迷惑している。
「麗子がそんなに俺を拒むのは、他に男がいるからじゃないッスか…?」
「…そうかもね。」
そんな男いない。
むしろこの男以外に話す人間すらいないけど、面倒なので適当に相づちを打った。
◇
「は…?
な、にを…やってんの?」
「麗子が俺を拒むのは、コイツがいるからでしょ?
昼間そう言ってたじゃん。」
「え?や、ちがっ」
コイツ、とは私の幼なじみを指していた。
黄瀬を除き唯一話す人間。
とは言えご近所さんのよしみで挨拶を交わす程度のものなのに。
「麗子が俺以外の男を見るからダメなんスよー?」
「な、に言ってるの…、」
死んではいないし死ぬ程ではないにしろ、四肢を折られた彼を見向きする事無く近づいて来る黄瀬に、思わず後ずさる。
「別れないし、浮気も許さない。」
そう言った彼の瞳に狂気を合間見た。
それが彼の唯一の欠落したものなのかもしれない。