主 | ナノ




「え、無理になったの?」
「先輩たちにごり押しされちゃって、ごめんなさいッス!
近い日に穴埋めします。」

黄瀬は部活と仕事の休みが滅多にない。
滅多にない休みすら今回のようにドタキャンになることもザラにある。

そう珍しい事ではないが、まさか彼の予定まで変わるとは思わなかった。




そう、黄瀬にドタキャンされて軽くショックを受けていたら火神が珍しく急遽休みになったと連絡が来た。

こんな偶然、本当に珍しい。




















「なんつーか…休みの日に会うなんて、無かったもんだから新鮮だな。」
「凄く嬉しいけどね。」

ほっぺをポリポリとかきながら明後日の方面を向いて言う火神は顔が真っ赤な事からも照れているのが分かる。
休みの日に会えた事もそうだが、彼の照れた顔を見れたのも嬉しかったりする。


返した返事がまずかったのか照れた顔から一変して申し訳なそうになって謝られた。

「…わりーな。」と。

火神が部活で忙しいのは理解してるし、それに不満はないから勘違いしないで欲しい。
そんな思いで首を横に振った。


「謝らないで。
今日こうしてるだけで幸せだし、さ。」






















それから1日は大いに楽しんだ。
と、言っても火神の為にスポーツ用品店に回ったりだとか食べ歩きしたりだとか何かしたと言うほどでもないのだけど。

それでも火神の言うように新鮮さもあって凄く楽しめた。



最後にストバスに行く事になって近場を探して行ってみた。





















「あ?黄瀬?」
「あー!火神っちじゃないッスか!」

今までが出来過ぎていたとは分かっている。
火神も黄瀬もバスケット選手で、IHやWC出場校なわけだし。

それにしてもなんてタイミングの悪い時に来てしまったのか、激しく後悔してしまうがもう遅い。




見慣れた金髪の黄瀬の姿を捉えたのは私だけではなく火神もで、黄瀬も黄瀬で火神と私の姿を捉えた。


黄瀬は清々しいくらいに笑顔で、確かに私を認識したのに話しかけても来ずにひたすら火神と盛り上がっている。私としては置いてきぼり感はあるものの、正直ホッとしてる。









と、思ったのもつかの間。不意に私を一瞥した黄瀬は火神に訪ねた。

「つか火神っちって彼女いたんスね〜」
「どういう意味だよ。」

本当に初めて会ったかのような態度で訪ねた。
それがなんだか無性に怖った。
火神はもちろん本当に知らないから、黄瀬の言葉にけなされたとしか捉えてないみたいだけど。「火神っちに彼女とか意外過ぎてもう…」
「うるっせーよ!」

笑いを堪えながら言う黄瀬に今まで黄瀬と過ごした時間が夢か何かだと錯覚しそうになる。
でも黄瀬と過ごした時間も現実で、今こうして黄瀬が他人のフリをしているのも現実。

と、なれば自然とこの後に起きる現実も予想がつく。




二股だとか浮気だとか悪いとは思わない。
でも、こんな状態でここまで他人のフリが出来る黄瀬に不安は感じるし
少しばかりの胸に痛みを感じた。

痛みを感じるならば私ではなくて、黄瀬や火神なのにね。
























「ま。俺、先輩たちと来てるんでそろそろ行きます。」
「おう、またな。」



どう反応したら良いか分からない私をよそに二人は別れの言葉を交わしていて、一安心した。









でも黄瀬が帰り際に私に向けた視線がやけに冷たくて、その後の火神との時間を楽しめやしなかった。


[戻る]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -