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birthday/敦

「うへー、さすがの俺でも麗子ちんの手作りだけは食べたくないなー。」
「なっ…!」



この酷い事を言い放つ男は紫原敦。

敦と私との関係は高校のクラスメートの他ならない。
他のクラスメートと違うところと言えば顔を合わせれば言い合いになること、だろう。


現に今も、今日が誕生日の友人に手作りのマフィンを贈っただけなのに
勝手に友人のマフィンを奪っておいて口に入れた途端に悪態つかれた。

友人は美味しいと言ってくれるし、私自身味見して大丈夫だから渡した訳で、敦に口出される言われはないし無視すれば良いんだけど…。


いかんせん、敦の言葉はいちいち癪に触るものでついつい売り言葉に買い言葉と言い返してしまう。




「敦の為にお菓子とか作らないし!自惚れないでよね。」
「むっ」

クラスのど真ん中で、ばちばちと火花を散らして、ふんっとお互いに顔を背けて席に着いた。
























10月9日。
敦の誕生日当日。


一応ガトーショコラを作って来た。一応ね一応。

でも登校して初めて、それは無駄な労力であり彼が遠い存在だと、思い知った。









まず、校門から校舎に行くまでに見えた少しばかりの人だかり。
それは敦の所属するバスケ部の部室であろう場所で、そこには不真面目な敦の姿はなく他の部員が対応していた。



不思議に思って視界に入った、敦と同じくバスケ部でありクラスメートである辰也に声をかけた。

「凄い人だね。」
「敦へのプレゼントらしい。」

返ってきたのは予想外過ぎる返事だった。


それは次いで目撃する教室での人だかりで現実のものだと理解した。





そして、後から登校してきた敦は色んな子たちからお菓子であろう包みを受け取って笑顔でお礼を言っていた。そんな光景も見慣れてきた夕方、つまりは下校時間。
1日考えた結果、敦へのお菓子は辰也にあげる事にした。




「辰也、これ食べてー」

部活に行こうとした辰也を呼び止めて鞄から包みを出して渡す。

辰也はなすがままに受け取ったものの、凝視したまま反応がない。



どうかしたのかと尋ねれば何かを言いかけ、敦によって遮られた。

「何、これ。」
「敦、それは…」
「ガトーショコラ。
敦が嫌いな私の手作りお菓子だけど?」


ひょい、と辰也の手にあったそれをつまみあげて私と辰也を交互に見比べた。
辰也がまた何かを言いかけていたけど、お構いなしに突っかかる私。



「…はぁ?」
「だーかー…」
怪訝そうな表情を浮かべるものだから、もう一度言ってやろうとしたら辰也に止められた。


「それは麗子から敦への誕生日プレゼントだよ。
じゃあ俺はお先に。」
ニコニコと爽やかな笑顔を浮かべて言いたい事だけ言った辰也はそそくさと部活に向かった。

き、気まずい。










「俺のなの?」
「…っ、そ、うよ。」
「…ふーん。」

確認するかのように聞かれて、恥ずかしいやら悔しいやらで視線を逸らして答えた。

敦は興味なさげに呟いてさらっとガトーショコラを食べていた。
私はと言えば意味が分からなくて呆けて敦を見上げて固まった。









「うん、これは美味い。」
「は、…はあ?
前にあんたっ、」
「俺の為に作ったお菓子は美味いの。
まあ別にこっちでも良いけど。」


そう意味の分からない事を口走ったかと思えば、私の頬をペロリと舐められた。


認めない。
美味いと言われて嬉しいなんて。

認めない。
舐められて赤面しているなんて。














絶対認めない。
敦の事、好きかも、なんて。


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