彼とは俗に言う恋人同士で、日本代表の監督とマネージャーというレベルは違えども仕事仲間でもある。わたしは学生という身分であり、彼はバツ一子持ち。もちろん年齢差もそれなりにある。けれどわたしたちはそんなことなど気にしてはいない。愛があればとはいったものだが、本当にそう思う。まだ寿命の半分も生きていないようなわたしが言うのも何だが。


監督の部屋は角部屋で、わたしの部屋の隣だから声の心配はあまりしなくていい、と思う。しかし致命的なのはお手洗いの前ということだ。わたしと監督の関係を選手たちに知られたりでもしたら、彼らの士気に関わるだろう。なんたって思春期の少年、少女。気にするなという方が酷だ。正直監督は娘さんも同行しているから、結構まずいんじゃないかとも思っている。そんなわたしたちは、只今絶賛夜の営み中だ。




「あっ、か…んと、くッ…ぁああっ!」
「二人のときは、名前で呼べと言っている」
「みちやっ、さん…!も、だめェっ…あ、あぁんッ!あっああ、あ!」
「は、ッ…四季…っ」




二人で絶頂を迎えて、道也さんがわたしの隣に寝転がる。わたしが彼の胸板にすり寄ると、道也さんは自然と腕をわたしの頭の下に添えてくれた。



「道也さん、あの、」
「なんだ」
「ものすごく言いにくいんですけど、…合宿中、というか、選手たちと同じ宿舎で生活してる間は、こういうこと辞めませんか?」
「……なぜだ」
「いや、だって選手たちに見つかったら大変ですし、かんと…道也さんもお疲れだと思いますし。それに、冬花ちゃんに見つかったりでもしたらどうするんですか。グレちゃいますよ」
「お前は、それでいいのか?」
「う…そりゃあ、道也さんとこうやって……セックスできないのは辛いかもしれませんけど、選手たちのためですし、我慢はできます」
「……そうか」




そういうと道也さんは天井を向いたまま大人しくなってしまった。眠ってしまったのかとも思ったけれど、手をあごに添えているので、多分まだ寝てはいないんだと思う。しばらく黙ったままでいると、わたしに眠気が襲ってきた。くっつきそうになる瞼を擦って、寝るために体制を整え、また彼の胸にすり寄る。すると彼は「四季、」とわたしの名前を呼んだ。




「な、んですか…?」
「わたしは、嫌だ」
「なにがです?」
「お前とこうやって、一緒に寝ることができなくなるのが、だ。わたしにとっては、お前と一緒にこうやって過ごすことが何よりの休息になる。お前はそれをやめろと言うのか?」
「いや、そういうつもりじゃ…」
「それに、冬花のことは気にしなくていい」




そう言って道也さんは、わたしを包むように抱きしめた。彼独特のいい香りがわたしを覆う。



「いずれ母親になる人だと、紹介するつもりだった」
「………え、それって」
「いやか?」




そんなことをいきなり言われても、困る。わたしは頷くことしかできず、ただただ首を上下に振った。素直に、嬉しかった。彼はその反応に満足したのか、少しだけ微笑んで、わたしの頭を撫でた。




「もう寝ろ。明日も早い」
「はぁい。おやすみなさい」




わたしは彼の腕の中で目を閉じ、幸せを噛みしめた。今なら、幸せすぎて死ねる気がする。


余談だが、朝食堂に向かうと、顔を真っ赤にさせた鬼道くんがいた。夜中にお手洗いに起きたらしい。わたしはその話を聞いて、苦笑するしかなかった。彼は「みんなには黙っておきます」と言って、朝練に行ってしまった。が、鬼道くんから聞いたことを監督に伝えると、「鬼道は私生活とサッカーを混同しないから大丈夫だ」と言われた。そういう問題じゃないと思う。けれど、いつかこんな心配なんかしないで、堂々と監督と彼らの試合をサポートできる日が来ればなあ、と思う。それが、監督も同じ気持ちだったらいいな。




100707



ナイスミドルたまらん。ナチュラルに監督がバツ一ですごめんなさい。