「あ、そうそう鬼道!俺ずっと聞こうと思ってたんだけどさ、お前年上の女の人と付き合ってるって本当か?」
「んぐぅッ!」
一之瀬に振られたその一言で、俺は口にしていたドリンクを吹き出しそうになった。寸前で堪えたせいで器官に入ってしまったが、今はそれどころじゃない。
「それ本当か!?」
「やるじゃん鬼道!」
「何!?どんな人なんだよそれ!ずりぃ!」
「ひどい!お兄ちゃんそんなことわたしに言ってないじゃない!」
綱海に始まり土門、半田、春奈までが興味を持ちだしてしまった。確かに俺には年上の大切な人がいる。優しくて暖かくて、俺の全てを受け止めてくれる人。だがそれを仲間に言う必要はないだろう。だから黙っていた、それだけなのになぜ非難されるんだ。特に半田、お前居たのか。
「なぁんだ鬼道、お前水臭いなあ!俺にも言ってくれればいいのに!」
「いや、それはだな」
「ねえ鬼道くん、お客さんが来てるんだけど…」
円堂に肩を叩かれていると(こいつ絶対怒ってる…)、木野に名前を呼ばれた。コートの外に目をやると、そこには話の中心人物。まったく、なんて間が悪いんだ!俺はフィールドから離れて彼女に走り寄った。
「どうしたんですか!」
「え?鬼道くんの練習してる姿見たくって。学校終わったから来ちゃった」
迷惑だった?と尋ねるに俺は「いや…」と曖昧な返事をしてメンバーたちに目を向ける。全員、こちらを見ていた。
「女の子がいたからサッカー部ってどこにいるんですかって聞いたら、偶然その子がマネージャーさんだったんだよ。ね、見てていいでしょ?」
「だめです」
「なんで!」
「あ、貴女がいると…!」
「わたしがいると?」
じっと俺を見つめて答えを待っている彼女に、俺はなにも言うことができなくなった。彼女がここにいるというだけで他のやつらはを質問攻めにするだろう。正直、他のメンバーと彼女が話すということにいい気がしない。しかし彼女は俺が止めても聞かないだろう。はあ、とため息をついた。
「……わかりました」
「やった!ありがとう鬼道くん!」
「その代わり、条件があります」
「なんだね?」
俺だけしか、見ないでください。
そういうと、彼女は一瞬驚いた表情をして、そして優しくほほ笑んだ。ああ、俺の好きな表情だ。
「そんなこと言われなくても、わたしは君しか眼中にないのよ?」
俺は胸の奥から込み上げるもどかしさを噛みしめて、彼女の手を引いてフィールドへ向かった。ベンチが気になって仕方がなくなるのは、わかりきっている。
100614
鬼道かわいいよ鬼道