泣きたいときほど泣けない。涙なんか引っ込んでしまう。悲しいのに、表に出てこない。どうしようもなく辛くても、苦しくても、顔を歪ませて、拳を握りしめて、もがくことも出来ない。



「君は感情を表現することが下手なんだね」
「ええ、まあ」
「じゃあなんで君はわたしのことを好きなんだろう」
「それとこれとは話が別ですよ」
「さてどうかな」



わたしは小さなカップに注がれたエスプレッソを口に運ぶ。彼も同じようにカプチーノを口にした。



「"好き"も"感情"の一つだと思うんだけど」
「感情がないみたいな言い方しないでください。ちゃんと気持ちくらいはありますよ、表に出ないだけで」
「ハイソルジャーらしからぬ発言だね」
「スパイクで蹴るよ」



ああこわい、降参を表すために諸手を挙げる。ため息をついてヒロトはカップの中身をスプーンでかき混ぜた。そして沈黙。わたしたちは周囲の話し声をBGMにしていた。



「ヒロトは、さ」
「はい」
「なんでわたしなの?近い年の子の方がいいとか、思わないの?」



わたしは素直に疑問に思ったことをヒロトに伝えた。年上のわたしより同学年や後輩の方が会える機会も頻度も多いし、話も合うと思う。しかもヒロトなら女の子には困らないはずだ。なぜわたしなんだろう。



「なんでって言われても」
「うん」
「四季さんのことが好きだから、仕方ないでしょう」



そう言われてしまったらぐうの音も出ない。むしろ出せない。至極無表情に近い面持ちのヒロトが、くすりと笑う。さながら、それは宇宙人の覚えたての笑顔のようだった。



120308