いくら真冬ではないからといって、コートなしでは寒い夜なわけで。わたしはマフラーで口元を隠して小さく鼻をすすった。空気の澄んでいる寒空はきれいに星達が瞬いていて、なくてはならない存在の街頭が邪魔に思えた。歩道にはわたしと有人の影だけで、まるで世界に二人しかいないような気がした。車道側を歩く彼の息は白くて、煙のように消えた。
「さむいねー」
「そうだな」
会話はそれっきり。わたしたちの足取りはゆっくりと、お互いの自宅へ向かっていた。彼は自転車を押しながら歩いているので大変そうだ。先に帰ってしまってもいいのにと気を使う自分と、もうしばらく二人でいたいとわがままを言う自分がいる。手を握りしめて気を紛らわせると、指先がとても冷たくなっていることに気づく。そして、彼もそれに気づいたらしい。
「大丈夫か」
「うん、へいき」
そうか、と呟いて、有人はまた前を向いた。わたしも同じように歩き出す。さむいな、今度は彼が口を開いた。
「そうだね」
「だから、手」
そう言って何気なく絡められた指が冷たくて、少し反応が遅れてしまった。俗に言う恋人つなぎ。頬が暖かくなった気がした。
「自転車、大丈夫?」
「問題ない」
それだけ話して、また会話が終わる。けれどお互いの手は、心は、さっきと違い、温もりに触れている。あったかいなぁ、わたしは無意識に呟いた。
120227
冬が終わる前に。