ガタタンと車体が揺れて、車両が繋がっている部品の音がぎいぎいと響いている。わたしと豪炎寺は夕日を背にして電車に揺られていた。車内は眩しいほどのオレンジに染まっていて、わたしたちの他にはギターのケースを足に挟んでイヤホンで何かを聴きながら目を閉じている若い男性と、読書をするサラリーマン、携帯をいじっている女子大生らしき人と子供を連れた母親二人が大きな声で世間話をしていた。彼女たち以外は誰も言葉を発していなくて、わたしたちも例外ではなかった。二人で並んだまま、しゃべらない。けれどそれは嫌な沈黙じゃなくて、暖かい空気を纏っているような、何ともいえない心地よさだ。彼も同じなのだろうか。ふと気になって、少しだけ顔の向きを彼の方に変える。すぐに気づいた彼は、澄んだ優しい眼差しで、柔らかく微笑んだ。


「なんだ?」
「ん、なんでもない」


夕陽に照らされて橙に見える彼の顔はなんだか少し寂しげで、なんだか切なくなった。わたしはスカートの端を少し握り、悟られないように俯く。ちょっぴりだけど、握った手が寂しい気がした。


「どうしたんだ」
「…なんでもない」
「そうか」


すると豪炎寺はするりと自分の手を、スカートを握ったわたしの手に被せてきた。驚きはしなかったけれど、少しだけ笑ってしまった。


「どうしたの?」
「いや、べつに」
「へんなの」
「お前に言われたくないな」


そうだね、と答えて彼の手に指を絡める。繋がった場所からじんわりと感じる彼の体温と優しさに、思わず頬が緩んでしまう。


「ねえ、豪炎寺」
「ん」
「すき」
「知ってる」
「わたしのことは?」
「…ここで言う必要はないだろう」
「やだ、言って」


少し意地の悪い顔をしてやれば、視線をわたしから外してから渋ったあと、薄く小さな声で「あいしてる」と呟いた。それはわたしの耳にちゃんと届いてから、電車の音と母親たちの笑い声にかき消された。




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