キリ、と胃が締め付けられるような痛みが走った。けれど、今に始まったことじゃない。ここ半年間ほど毎日続く胃痛に、俺はもう完全に諦めていた。薬を飲んでも腹を暖めて眠っても消化に良いもの食べても同じことなのだから。
「浮かない顔だね。さては何か悩みがあると見た」
彼女は来室記録を俺に手渡して、窓際ではためいていたレースカーテンを閉めた。hざしが真っ白く輝かせるそれは、眩しいほどに反射している。彼女はしてやったりという顔で俺を見つめる。図星、とまではいかないが、まあ近いところまでは当たっている。悩み。確かに、俺は今悩んでいる。
「俺はもともとこんな顔ですよ」
「さてどうかな。今の君の表情みたいな子はたくさん見てきたからね。わかるんだよ」「はぁ、」
「まあどうしても言いたくないのなら、言わなくてもいいけれど」
話したくなったら、限界になったら先生に話すんだよ。そう言って微笑む彼女に、つい、口が滑ってしまう。
「先生は…」
「なぁに?」
俺じゃダメなんですか。すぐそこまで出かかった言葉を寸前で飲み込んだ。なにを言おうとしてるんだ、俺は。少しだけ躊躇ってから俺は先生に言った。
「先生はどうして中学校の先生になろうと思ったんですか」
先生はキョトンとした表情のあと、ふっと優しげに微笑んでから言った。
「中学時代がわたしを変えてくれたから。それがなかったら、今のわたしはいない。だからこれからわたしが他の子たちをいい方に変えたり、支えたり出来れば良いなって」
「じゃあどうして保健医に?」
「一番お世話になったから」
淡々と語る彼女に何があったかはわからないが、俺にはそれがありがたかった。彼女がそれを経験したからこそ、俺は彼女とここで出会えたのだから。
「君は将来の夢とかもう決まってるの?」
「俺はまだ…」
「これから悩む時期だね。まあまだまだ時間はあるんだから、それから決めればいいさ」
そう言った彼女の笑顔にまた胸が締めつけられ、胃が痛んだ。
110726
敬語あきお萌え