「貴女が好きです」
本屋の軒先のしたで雨宿りしていたわたしに、豪炎寺はそう呟いた。辺りには雨音しかしなくて、豪炎寺の言葉は紛れることなくわたしに届く。わたしは驚いて彼の方を見下ろしたが、彼は真剣な眼差しでわたしを見上げていた。
「…君が好きなのは円堂じゃないのかな?」
「あいつはサッカー仲間で、貴女に対する感情とは違う」
「まあ…そうだろうけど、さあ…」
わたしは答えに困って、淀んでいる空を見上げた。雨はまだ止みそうにない。傘をさした中学生や高校生たちが私たちの目の前を通り過ぎて行った。
「そういや、豪炎寺はなんで一人なんだい?円堂とか鬼道とかとは一緒じゃないの?」
「いや、今日は、その」
「なになに?」
「あ、貴女に……言うために…一人で……」
「あ、なるほど」
恥ずかしそうにだんだんと声が小さくなっていく豪炎寺が可愛くて仕方ない。というか、なんでわたしなんだろう。豪炎寺はカッコいいしスポーツもできるし、多分頭もいい。そんな彼をクラスどころか学校中の女子は黙って見てるだけのはずがない。
「ねえ豪炎寺」
「なんですか」
「わたしの家まで相合傘でもしないかい?」
「…!」
「コンビニまで走ってさ。君にはいろいろ質問したいことがあるんだよ。聞かせてくれないかな?」
わたしの家で。そう付け加えると豪炎寺の顔がボッと赤くなった。あっは、超かわいい。
「可愛いなあもう」
「可愛くない!」
「はいはい、行こうか」
雨脚は変わらない。さあさあと降る雨の中、わたしと学ラン少年は水たまりを踏んだ。
100613
初稲妻