宇宙へ持っていくとしたら、何を準備しようか。飲食物、衣料品、医療品、生活必需品などなど。考え出したらきりがなくなってしまう。けれどわたしには、何に変えても持っていきたいものがある。

「紙とペン?そんなの当たり前じゃない?」
「まあそうなんだけどね」
「ふうん。一応理由を聞いてあげるよ」

ファミレスの端っこの席で宇宙の話なんて、なんだか変だね。ヒロトはそう言って、先ほどウェイトレスのお姉さんが持ってきてくれたコーラフロートのアイスクリームをスプーンで掬って口へ入れた。わたしは続ける。

「手紙を書きたいの」
「手紙?」
「そう、手紙」
「どうして?」
「だって、もしわたしが死んじゃってもヒロトへって書いてれば、ヒロトのところに届くでしょ?」

ヒロトは口へ運ぼうとしたスプーンを止めて、きょとんとした表情になった。方肘をついて食べるのはお行儀が悪いですよ。

「…面白いことを言うんだね」
「でしょ」
「でも同意はできない」
「どうして?」
「だって君が死んで残された手紙なんていらないからね」

ヒロトは少し溶けたアイスクリームをコーラの中に入れて、そのままストローでコーラを飲んだ。今度はわたしがキョトンとする番だった。

「どうして?わたしが死んだら遺品になるんだよ」
「俺は君の遺品なんて欲しくないし、必要ないよ」
「どうして…?」
「手紙なんかで見るより、君に直接会いに行くから」

てん、てん、てん。沈黙。最初はいらないと言われたことが悲しくて、泣きそうで、彼の言っていることがどういう意味かわからなかった。けれど、その意味に気付いてしまったら、わたしの目からはいつの間にか大粒の涙がこぼれていた。

「やだよ、会いにこないでよ」
「手紙なんかじゃなくて、君から直接聞きたい。だから会いに行く」
「ヒロトはしんじゃだめ」
「じゃあ俺が死なないために、君も死なないでね」

わたしの手を握った彼の手は暖かい。わたしは少し安心して、鼻水をすする。アイスクリームの甘い香りがした。





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BGM:カムパネルラ