旧式Mono | ナノ

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夢小説なんて、所詮虚構と想像の産物で。結局、夢物語に過ぎないんだ。


…と。
そう感じるようになったのは、高校に入ってからだろうか。
ドリーム小説などと言うものを知り、その中の憧れのキャラ×自分というものに依存していた、中学生時代。冷静に振り返れば、かなり痛々しかったと思う。
漫画の中では決して言うはず無い愛の言葉を、彼と同じ口調で言われると本当に胸が苦しくなったり。画面を見ながらにやけたり。傍から見たらかなり怪しい子だった。
バレンタインやクリスマスだと言うのに、私は恋人の一人も作らずに、「限定夢見なくちゃ!」と広大なネットを駆け巡ったりもした。今年の冬はあの素敵なクール忍者とすごすんだ!…とか、言っていた。

……全くもって、痛い中学生だったと思う。



中二病を患っていたあの頃の自分は、今や黒歴史以外の何者でもない。
当時ブームだった『腐』と言う言葉に一抹の優越感を感じ、いけしゃあしゃあと人前で「私、腐だから☆」と言っていた。全く、酷過ぎるにも程がある。
最近はやっと若気の至りだと思えるようになってきたけど。少し前までは過去の自分を消し去りたいと本気で思っていた。『過去は変えられない』という言葉に、これほどむず痒さを感じたこともそう無かっただろう。




かつては痛々しい厨二病患者だった私だけど、今では“見た目は”極々一般的な大学受験生だ。
ブレザー仕様の中学生から一転し、私はセーラー服の高校へと入学して早3年。
夏の空気が冷たくなり、塾の壁に貼り付けられた『夏が勝負!』という文句は『これからの粘りが勝負!』に変わって行くのをよそに、塾と学校を往復するだけの毎日。どこにでもいる幸せな18歳だけど、こんな私にも悩みが合った。そんな中で私は周りと同様に適度に勉強する裏で、こっそり再発してしまった夢小説熱に頭を抱えていたのだ。
人間苦しいとつい現実逃避してしまうのだけど、これは酷いと思った。私の周りでの一般的なストレス解消法は、買い物とか遊びとか前向きで行動的なものが多い。でも私は、まるであの黒歴史の自分をなぞるように携帯やパソコンでサイトを開いてリラックスしているのだ。お世辞にも、普通の人とは言い難い。



…だけど、私は最悪な歴史を繰り返すほど馬鹿な人間じゃない。
あの頃のようになりふり構わず、「この漫画面白いんだよ!」と学校に少年漫画を持っていくとか、夢小説を読んでいる事を公言して堂々と読んだり勧めたりは絶対にしない。あくまで他人に悟られないような、夢小説を読む上での常識の範囲で楽しむようになった。

幸いなことに少し遠い私立の高校に通っているため、電車の中は常に暇、暇、暇の嵐。
元々同じ方面から登校する友達が少なく、それ以前に大人数で騒ぐタイプでもない私は、携帯夢サイトなら見る暇がたくさん合った。


iPodで誤魔化すものの、一人だとどうしても目のやり場に困る、朝7時の電車内。メールの来ない携帯なんて開いたってつまらないから、外をぼんやりと見ていたこの時間。それを利用して、私は小説を読むことにしていた。



夢小説に再発したのはもうひとつ理由がある。彼氏との破局だ。

好きだ告白してきて半年、「やっぱり好きじゃなかった」なんていわれた瞬間、私は悲しいというよりかは吃驚した。顔文字風で言うなら「(゚Д゚)」な感じで表現されるくらいびっくりした。別に、私自身大好き!といった感情を抱いていたわけじゃないから、文句は言えなかったけど、あの衝撃はなかった。結局二つ返事で承諾して、円満な破局を迎えて落ち着いたのだけど。納得の行かない部分がたくさん合った。


好きだと言うから付き合った。それだけの間柄が別れたとしても、ショックは受けない。そう思っていた。なのに別れと言うものはゲンキンなもので、普段意識しなくても別れという脚色により「やっぱり必要だったかも!」と思わせてしまう。其れが『人間的には大好きであった』彼氏なら、尚のこと大きかった。ただ其れは『悲しい』のでも『好かれたい』という類ではなく、後悔と大きな虚無感しか生まなかったけれど。


……引きずっているわけじゃない。何度もそう自分に言い聞かせ、私は夢小説に走るようになった。実際メールを消せなかったりとかなり引きずっていたのだけど、私はそれを絶対に認めたくはなかった。



現実の恋愛に対しての現実逃避には、夢小説はある意味最適だと思う。
変わらない何かがそこにあり、そこの先には必ず「ハッピーエンド」と言うものが待っている。
そうではない場合でも、そこには『悲恋』や『死ねた注意!』のタグがついているため、安心できる。
甘いと表記された小説は、決して私を裏切らない。現実の人間のように、「やっぱり好きじゃなかった」とは、決して言わないのだ。もし言ったとしても、代わりに別の誰かが愛をつむいでくれる。現実では絶対にありえない台詞で、仕草で、愛のある強引さで。


それに比べたら、現実なんて苦しいだけだった。
言葉意外にも「心」と言うものがあって、私の知らないところでその心は動いて、どんどん私から離れていってしまう。
小説とは違って展開が読めなくて、辛いのか幸せなのかも分からない。真っ暗な闇の中を、暗中模索しながら歩くのと同じようにして、前を向いていく。そんなストーリーは、今だけは見たくない。


つまり、私は現実の恋愛は苦手だった。
先の読める、安心できる画面上の『物語としての恋愛』が好きだったんだ。


……だから、私は。
こんな展開(リアル)、私は望んでなんていなかった。


変化しない幸せに
“憧れていた”、ただそれだけ




Monochrome
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(08/09/15)


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