旧式Mono | ナノ

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ああ如何して、彼女がここに居るんだろう。


チェルベッロは僅かに焦ったように飛びのき、私を助けてくれた少女から距離を取る。
眉をひそめたところから見ると、この事態は彼女たちの想像を超えるところにあったからだろう。気持ちは分かる。私だって、驚きを隠せない。


私を助けてくれた少女は、私を抱きしめるような姿勢からゆっくりとはなれる。
モスグリーンの制服が体の凹凸に沿って極端なカーブを描き、ところどころ透き通るような白い肌が露出されている制服。藍色の髪はどこか見たことのある独特な形をしていて、髪と同色の転げ落ちそうなほど大きい左目。右目には、黒い眼帯が当てられていた。
私は彼女の名を言おうと思うのに、驚きという感情が支配しすぎて、私の喉は思ったように言葉を発することが出来なくなっていた。
私が彼女の名を『どちらの名前』で言おうかと思っている最中、チェルベッロは慌てたように何かを話し合っていた。


―其れは、そうだろう。

霧の争奪戦まで、彼女とクローム髑髏、つまり凪は会わない事になっているのだ。
彼女らはこの世界の秩序を護るために動いている。其れを自ら壊すようなことをしまえば、動揺の一つもしてしかるべきだ。
彼女は何かを話し合った後、悔しそうに舌打ちをした後に一瞬で姿を消した。どうやら、私の問題は先送りにしたらしい。


彼女らが居なくなると同時に、幻術が解ける。今更のように人々がこちらに目を向け、怪訝そうな表情で私たちを見下ろす。
クロームも其れに気付いたのか、三叉槍を逆さまにして地面をトン、とつく。その瞬間にまたふと視線をそらす人々を見て、私は何となく彼女のおかげだと知り、ため息をつく。



「あ…ありがとう、ございます」

「…骸様のため、だから」


私の言葉に彼女は淡々と其れだけ言うと、「でも、大丈夫?」と僅かに眉をひそめながら、私の顔を覗き込む。
今気付いたけれど、私のこの世界に来てここぞとばかりに強調された大きい瞳は瞳は、ちっとも大きい部類には入らなかったらしい。
これでもかという程凹凸のある彼女の体に、長い睫に大きな瞳。キラキラとした吸い込まれそうな瞳に見入ってしまい、私は思わず息を呑む。
彼女は私の沈黙を肯定ととったのか、視診により解釈したのか。「無事なら…いい」と小さく息をついて、僅かに表情を緩ませる。
其れは笑顔と呼ぶことを躊躇う程の曖昧な表情だったが先ほどまでの硬さは無く、私は安堵する。


「…私は、クローム髑髏。貴女は、ナマエ」
「…知ってる、んですね、私のこと」

「骸様が……言ってた。…あなたを、護れって」



だから、助けたの。という彼女の声が響くと同時に、私は鈍器で殴られたような衝撃をうけた。…いやでも、そういえばさっきも骸様の命で、とか言っていたような気がする。
でも、信じられない。骸が護れと言った?……――彼を騙した、私を?


「……嘘、」
「嘘じゃない」

私の呟きに律儀に応答しながら、彼女は自分の何倍もあるユージさんを起こそうとする。だけど、私は手伝うことも出来なかった。


「嘘だよ」
「本当。私は骸様の命で…並盛にきた」

「何…で?」
「……骸様が言った…それだけ」

「私…骸に何もしてないのに…」



してあげれなかったのに。助けられなかったのに。其れなのに、彼は私を助けるというのだろうか。本当に?答えは……否。だって彼は、私を疎みはすれど、護る理由なんて無いのだから。


「…貴女が助けてくれたって言ってた」
「私が…誰を?骸は…まだ、」
「犬や千種を。だから、貴女は」



『助けるに値するんですよ、ナマエ』

「骸…っ?」

一瞬だけ“微笑んだ”凪に私はそこに会ったはずの名前を呼ぶと、彼女は直ぐに無機質な表情に戻っていた。
見間違いだったのだろうか。それとも、彼は今までここにいたのだろうか。私には分からない。分からなかった。何もかも、分からなかった。
犬と千種を助けたのは骸であって、私ではない。彼らを今保護しているのは、ボンゴレファミリーであって私じゃない。なのに何故、彼は私が助けたというのだろう?不可解だった。私は、何もしていない。


「ここに居たら目立つ……だから、運ぶ」


ユージさんを運ぼうとする凪に慌てて手を貸すと、何故だか彼女はありがとうと呟く。如何して?お礼を言うのは、寧ろこっちのはずなのに。
公園に運ぶという彼女の言葉にしたがって必死にユージさんの体を支えながらも、私は混乱していた。『骸』が何故助けようと思ったのか。その理由が、余りにも弱いような気がして。裏がありそうな気がして。少し、怖かった。



「…凪、ちゃん」
「何」
「……ありがと、う」


私がそう言うと、彼女は訳が分からないというように首をかしげる。
私はどうしても彼女に『如何して骸は私を助けようと思ったのか』が聞けなくて、思わず「なんでもないよ」と誤魔化した。
(09/02/08)


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