旧式Mono | ナノ

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『何ものにも囚われずにわが道を行く浮雲』


その言葉に矛盾があるなんて、私は考えたこともなくて、私は半ばパニック状態に陥りながら彼を見る。
おかしいところなんて、一つもない。だって其れは、原作の知識であって、絶対に覆せないこの世界の決まりごと。
其れは漫画家、あるいは作家の脳から苦痛を伴い生まれた“アイディア”であり、其れがこの世界の根底基盤のはず。…いや、そうでなければ、いけない。――まあ、こんな漫画の中と言う世界がある時点で私の常識はカナリ覆されているけれど。それでも、漫画の知識を否定されるのは、何だか納得いかない。
こんなこと、私の世界の原作ファン派の人が聞いたら目の色変えて飛び掛ってきそうだ。


「…そんなの、無い」

ようやく言葉を絞り出すように零した私に、彼はしょうがねーなと面倒くさげにため息をついた。
彼は帽子を取ると、私の体から手を離す。同時にレオンも元のカメレオンに戻り、机に置かれた彼の帽子の上に乗っかった。



「雲の守護者が、何ものにも囚われねえのは根本的におかしいんだ。一つだけ、囚われなきゃいけねーもんがある」
「……どういうことですか」

「自分で考えろ。そもそも、雲の守護者ってのは何だ?」


意味深に彼はそう言葉を零すと、私の座っている場所の直ぐ横に座る。どうやら、私が考えつくまでまつ、ということらしい。
だけど、私には分からない。雲の守護者が囚われているもの。…そんなの、あるはずが無い。
私の知っている雲の守護者としての雲雀恭弥は、何者にもとらわれていなかったはずだ。…じゃあ、一体なんだというのだろう。“そもそも雲の守護者とは何か”…これは恐らく、彼なりのヒントだ。だけど、雲の守護者は……。


「…あ」と、声を漏らした私に、彼は楽しそうににっと微笑む。分かったか?と楽しげに微笑まれ、私は小さく頷く。そう、其れはとても簡単なことだった。


「マフィア…っていう、組織…?」
「当たりだ」

「…でも、其れが何か私の処遇と関係あるんですか?」
「大有りだぞ。雲ってのは確かに変幻自在で取り留めの無い自由なものだ。だが、マフィアと言う組織に属する以上、いくら自由な『雲』っていったって守らなきゃいけねえ組織がある。ファミリーを守れねえやつは、守護者として必要ねえからな」



彼はそんな長台詞を吐き出すと、一旦切って、「話についてこれてるか?」と確認する。私は曖昧に頷きながら、必死に自分の中で考える。
つまりは、集団行動が出来ないやつはいくら『個性』があるといえど集団には入れれない、と言うこと…なのだと、思う。
自分の言葉に出来た私は彼の話を促すようにもう一度頷くと、彼は少しだけ微笑んで、言葉を続けた。


「一見マフィアに必要のねえ『雲』が、何故リングにあるのか、考えたことあるか?」
「…無い、です。でも……客観的な視点の存在が必要だから…だとは、思います」

「そうだぞ。ファミリーとして一つの方向を見てると、つい他の方向を見失いがちになるからな。だから、ファミリーとしては必要なんだ。諸刃の剣だがな」
「…諸刃の、剣…」

「お前が孤高と表したとこから分かってるだろうが、雲は常に一人を好む。そんな雲を、マフィアに引き寄せることが出来ねえと、簡単に裏切られるんだ」


「…雲雀さんが、裏切ると?」


私の問いに、彼は肩をすくめた。
そんなことは言ってねえ。と彼は呟く。「コレは、雲の特性の話だ」といった彼だけど、その声は小さく、少しは図星だったのかと思う。…そういえば、未来編の雲雀恭弥は、ボンゴレ本部が襲われたときに武器を持って応戦していたっけ。

今思えば、確かにおかしい。
だって、彼が無条件に『ボンゴレファミリー』のために動くとは思えない。
そもそも如何して未来編の地下アジトが隣同士なのかも分からないし、確か『ボンゴレと財団の取り決め云々』なことを草壁さんが言っていた気がする。
確かに、雲雀恭弥は目的が合えばミルフィオーレの助力になるような行動もしそうだ。でも、如何してあの未来の雲雀恭弥は、ボンゴレのために動いていた?

徐々に混乱していく私を、彼は落ち着かせるように頭を撫でた。あんまり深く考えるな、といいたいらしい。彼は、気づいているのだろう。私が『漫画』と『この世界』を比べていることを。
「事実として受け止めなきゃ、パンクするぞ」といわれてしまい、私は頭の中から漫画の中で得た知識を考えないようにする。
確かに、新しい『この世界設定』の量が多くて、頭がパンクしてしまいそうだった。



「だから、いつの雲の守護者にも其れを動かす、存在が必要だった。そうじゃなきゃ、敵側に着くとも限らねーからな」
「…雲を動かす、存在?」

「そうだぞ。言うなれば……『風』ってとこだな。まあそんなリングはねーが。雲の守護者の傍らには、雲を動かせる風のような存在が必要だったんだ」


彼はそう言うと、その笑みを深くした。
再びまみえた、至極楽しげな表情。私はその時初めて、雲の守護者云々の話と、私の処遇の話が繋がっていることに気づいた。


「本来はそれは俺がするはずだったんだ。だが…昨日お前はどんな形でもヒバリを動かした。だから、お前にも『風』の資格はある」


其れはつまり、マフィアへの勧誘。そして同時に、私と言うロータスイーターを手中に収めるという策略。
良く出来た策略に、私は思わず嗤ってしまう。だって、私には拒否権なんてあらかじめ用意されていないのだ。
利用されて風になるか、死に際ギリギリまで拷問されるかのたった二択。逃げ出すことも抗うことも許されない、絶対的な二択。


「“風”の役割を果たすなら、俺らがお前を守ってやる。この世界のどいつより虚弱なお前をな」


彼はそう言うと、一旦言葉を区切る。
守るなんて、白々しい。結局のところ彼らは私を殺したくないんだ。利用価値のあるものとして。そして結局は未来を知るというロータスイーターが欲しいだけ。本当に、それだけなくせに。守るなんて…白々しい。
私は顔を伏せて、口を噤む。そんな私を見かねたように、彼は再び私の胸倉を掴んだ。

そして低い声で、短く零す。其れは問いなのに、有無を言わさないような、重い言葉。


「風か拷問。悩む必要なんてないはずだぞ」


自由の無い光か、自由の無い闇か。…確かに悩むはずなんてない。これは、実質上一択しかないのだ。
私は搾り出すように、「風」とつぶやく。彼は満足そうにニヒルな笑顔を浮かべると、「これでお前はボンゴレを裏切れねえぞ」と念を押すようにつぶやいた。
(08/01/15)


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