旧式Mono | ナノ

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まるで世界が呼吸を止めたように沈黙は息を潜め。殺意の孕んだ静寂という名の闇は、空間に滲み広がる。
あたかも其れが当たり前のように部屋の中に溶け込んでいく其れに、私は途方にくれていた。
泉のように湧き広がる其れの源と言うべき二人は、静かににらみ合ったまま、お互いの武器を向け合っている。
私はどうしたらいいのかも分からないまま、二人を見つめることしかできない。踏み出す勇気など、もちろん無かった。
勇気と言う追い風に急き立てられて自ら命を張れる人間。私は、その人間ではなかったらしい。いざというときの私にあるのは、自己防衛にしか走れない弱い心だけだ。


「…嫌だ」


自らの弱さに抵抗するように、言葉が零れた。
リボーンと雲雀恭弥は、私の零した声に僅かにこちらを一瞥する。私は、何をしようとしているのだろう。口をついて出ようとする言葉を必死で押さえ込みながら、私は必死に打開策を考える。考えなければ、いってしまいそうだった。
うるせえぞ。リボーンはそう言ってレオンを私の方になげると同時に縄状になったレオンは私の体に絡みつく。
雲雀恭弥はそんな私を見てもなんとも思わず、寧ろ好都合だというように口の端を僅かにあげた。味方なんて、私には居ない。


「……うから」


打つ手が完全になくなり、再び武器と武器を向かい合わせる彼らに、私は思わず言葉を零した。
言うな、言うな、言うな!そう思うのに、駄目だった。そうでなければ彼が、雲雀恭弥が、殺されてしまう?…いや、リボーンがそんな浅はかなことをするはずがない。そう思うのに、いざ雲雀恭弥に銃を向けられると怖くてしょうがなくなる。1パーセントでも、雲雀恭弥が死ぬ可能性があっちゃいけない。そんなこと……許されるわけ無い。
「聞こえねえぞ」というリボーンに、私の心臓は跳ねる。撤回する、ラストチャンスを与えてくれているようだった。
声が震える。これを言ってしまえば、私はどうなってしまうのだろう。傷つかずに守られるのか、それとも売られるのか。拷問されるのか、殺されるのか。分からない。分からないけど……言うしか、道は残されていなかった。


「言う……言うから……武器をしまってください、リボーンさん」

私がそう言っても、彼は何も言わず、銃口も雲雀恭弥に向けたままずらさない。
さっさと言え。そう無言で促され、私は突き刺さるような雲雀さんの視線から逃せるために、顔を伏せた。
そう、私は彼を騙していた。記憶が無いなどと嘯いた。だからこの先を言えば、私は…9割の確立で、雲雀恭弥に殺されるだろう。



「ロータスイーター…。其れが、私のような人間をさすこの世界の言葉だと、骸に聞きました」


私の言葉に、リボーンは直ぐに何者か分かったように、ただでさえ大きい目を殊更大きく開く。
転げ落ちそうなほどの黒い瞳を見ながら、私は少しだけ安堵する。黒塗りの銃は既に、降ろされていた。
驚愕。まさにそんな言葉がぴったりな表情を浮かべ、言葉を失っているリボーンに、雲雀恭弥も異変を感じたらしい。彼もトンファーを降ろすと、不機嫌そうな表情で私とリボーンを見比べる。


「ねえ赤ん坊。何なの、そのロータスイーターって」
「…夢想家という意味でな。別の世界から来たとホラぶく人間。この世界が漫画になってるとか未来を知っているとか馬鹿なことを言う人間を罵る言葉だ。だけどその未来はことごとく当たると知られたここ数百年、奪い合いの戦争が起こるほどの価値があるといわれている」

「別の世界?何なの、其れ」
「さあな。俺も伝説程度にしか聞いた事がねえんだ。俺がボンゴレに着いたのは、そのロータスイーターが死んだ後だったからな」

「馬鹿げた妄想話だね」
「…本当に、そうですよね」



私は雲雀恭弥の言葉に私はそう零すと、自分でも訳がわからないまま嗤ってしまう。
私の居た世界でこんな設定があったら、確実に「妄想厨乙」とか叩かれそうな“設定”、本当に馬鹿らしくて嗤ってしまう。
今日び小学生でもこんな陳腐でばかばかしくて、一瞬で作り物だと分かる下手なグラフィックのような世界、書きはしないだろう。
そんなものを演じている自分が馬鹿らしくて、私は乾いた笑いを零す。視界が歪み、涙が頬に伝った。何やっているんだろう、私。



「妄想話だったら、夢小説のような物語だったら…」

どれだけ、よかったんだろう。
後から後からついて出てくる涙を、言葉を、堪えきれないまま全部吐き出す。
思った弱音をこんなにも素直に言葉にして口から零したのは、多分この世界に来てから初めてのような気がした。

でもきっと、コレが最初で最後なんだろう。
私はボンゴレに引き取られて死ぬまで利用価値のあるものとして囚われるのか、雲雀恭弥を騙した罪で彼によって殺される。そのどちらかだ。そのどちらかしか、私の未来には無い。そう思うと、もう何をやってもいいような気がした。
私がそう思うと、私の体を拘束していたレオンは形状を変え、L字型の金属になる。
緑色の銃。私は其れをみながら、ぼんやりと自分に押し付けたらどうなるのかと思ったが、そんな必要はすぐに感じなくなった。リボーンが、その銃口の私に向けてくれたから。


「本当に、ごめんなさい」

私は彼に…雲雀恭弥向き直って、そう呟きながら、引き金が引かれるのをみた。しかし、そこからははじけるような音はせず、ボン、とくぐもった音が響いた。それと同時に、白い気体が銃口から噴射され、私の顔を直撃する。
噎せかえる私に、雲雀恭弥が近づこうとする。急激に瞼が重くなり、意識が朦朧としてくる。私は必死に彼の表情を追おうとするけど、白い霧が私の顔の周りにだけ漂って、雲雀恭弥の表情は分からなかった。


「安心しろ。催眠ガスだ」

楽しげに言うリボーンの声が、意識を失う瞬間に暗闇の向こうから滑り込んできた。
(09/01/04)


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