旧式Mono | ナノ

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傷だらけの雲雀恭弥はおぼつかない足取りのままリビングに入ると、そのままソファーに倒れこむ。
よく見れば彼の体は全身傷だらけだった。どうやら私に“制裁”を加えた時も、よほど無理して立っていたらしい。
口の周りは血で汚れ、髪はよほど動き回ったのか汗でもつれて絡まった髪。汚れた制服に、学ラン。すう、と瞬間的に寝息を立てた彼に私は掛け布団をかけると、ため息をつく。



とりあえず、彼の消毒が先か。
私は脱衣所に行きタオルを取ると、それを温かいお湯につけて、ついでに起きた時に直ぐに入れるように自動給湯ボタンを押す。
機械的な女の人の声と同時に、水の出る音。私はそこに蓋するとお湯に浸ったタオルを桶ごともって、脱衣所を出る。なんだか、疲れた。とても。
ただ買い物に出ただけだったのに、白蘭に捕まったり。大人…じゃなくて。キャバッローネの人たちも会ってしまった。私は少し、関わりすぎているのかもしれない。この世界に。



「人一人分の影響力…か」

骸の言っていた言葉を思い出して、私はぐ、と下唇を噛み締める。
『バタフライ効果』どれだけ存在を殺そうとも、その存在があが少しでもある限り多大な影響力になるその例え。
私はどのように居ても、私の描きたい歴史は変わってしまう。生きても死んでも、それは多分、同じこと。私が死んだところで、「来た」という事実があればソレは十分に引き金になりえてしまう。引き返す事も立ち止まることも、私には許されない。もし、守りたいならばの話だけど。


ため息を堪えながら、私は湯気の出るお湯からタオルを出し、固く絞る。
彼を起こさないように慎重に前髪を掻き分けると、そこにそっと、タオルを触れさせる。
彼は僅かに動いたけれど、起きる気配は無い。かなり疲れていたのだろう。直ぐに寝てしまうことは特に珍しいことでもないけれど。触れても起きないなんて、相当だ。
額に乗せたタオルを離しては置いて、離しては置いて。出来るだけ起こさないように注意しながら血を落としていく。
鼻を強く打ちつけたのか、その下の血が凄いことになっている。引っかかないように注意しながら瘡蓋を水蒸気でふやかす。引っかいて起こしたら、絶対に殺される。
何度もお湯を変えながら何とか彼の顔を吹ききると、白いタオルはもう赤黒い色に染まっていた。


…その世界の人は、如何してこんなに血まみれになってもがんばれて、痛くても立ち上がれるのだろう。
そんなことを思いながら桶を戻そうと立ち上がると、不意に腕に暖かさを感じて、立ち止まる。誰かに掴まれているような感覚に、私は僅かに呼吸を止めた。起こしてしまった、と思うと同時に、私は同時に振り向きざまに謝っていた。
「すみません、起こすつもりは無かったんで…す」…トンファーの一つや二つとんで来てもおかしくないと覚悟していたのに。何時までたっても体のどこにも、その衝撃は来なかった。


「…雲雀、さん?」と恐る恐る顔を上げると、「ちげーぞ」と、彼にしては砕けすぎた口調に、私は思わず後退。
私をの手を掴んでいた、(恐らく雲雀恭弥に似せただろう)マジックハンドは瞬く間に膨らみ、私の両手を包み込んで拘束する。
派手な音を立てて、持っていた桶が落ちて派手にお湯が広がった。ああ、雲雀さんにばれたら頃されるのか。それとも殴られるだけですむのかな。と、私は他人事のように、そんなことを考えた。



「俺は今無性に腹が立ってんだ。暴れたら、女とはいえ容赦しねえぞ」

黒いソフトフェルトハットに不釣合いなほど幼い顔立ち。体のバランスに疑問を感じる程小さな赤ん坊の体。
突きつけられた銃は綺麗な照明に不気味なほど艶やかに黒光りしながら、真っ直ぐと私の脳天に向けられている。その中身が死ぬ気弾など生易しいものじゃないなんて、そんなもの彼から出る雰囲気で聞かずとも分かってしまう。
私には殺気と言うものが具体的にどういうものか分からないし、漫画でよく表現される『ビリビリビリ』といかにもな感じでは感じ取れない。
ただ分かるのは、空中を通して彼から漂う尋常ではない“緊張感”と“緊迫感”。指先一つでも動かせば、殺されてしまいそうな眼力。それだけだ。


「…渡せ、なくて、本当に…すみ、ませ…ん」


まるで30台ぐらいのカメラを向けられているような圧迫感に喘ぎながら、私は途切れ途切れに言葉を吐き出す。
だけど、私のはなった言葉は寧ろ彼を刺激する言葉にしかならなかったらしい。ジャキ、と、構える音がした。
彼から感じる圧迫感は私の忍耐力を越え、私の喉の奥から引きつるような音が漏れる。彼は肩のレオンの形状を、いかにも漫画らしい『4t』と書かれた錘に変え、マジックハンドをそこにつける。完全に身動きが取れなくなった私に、彼はゆっくりと歩いて近づくと、遂に彼の小さな手が私の顎に触れる。


「んぐっ…!」

一瞬の動揺。その隙に彼は私の顎を押し下げると、口の中に銃口を深く、深く、ねじ込んだ。
喉の奥に押し込められたことにより唐突に嘔吐感に喘ぐけれど、昼から何も食べていないだけに、胃にはもう何も残っていないようだった。
いつまでたっても開放されない嘔吐感に涙目になりながら、私は銃弾の装着が終わっていたことを思い出す。彼が人差し指を引けばいつでも私は死ぬ。何だかそれはあまりにあっけなくて、私は18年間も生きてきた意味を一瞬見失っていた。


「動くな。俺はリボーン、一流のヒットマンだ。洗いざらい白状しねえと、この引き金を引くからな」

彼はそう言うと、ゆっくりと私の口から引き抜き、眉間に押し付ける。痛い、だとか。そんなこと思っている余裕なんてなかった。
あり得ない緊張感が、リビングを埋め尽くし、滲むように広がっていく。響くのは、雲雀恭弥の小さな寝息だけだ。


「はく、じょ…?」

息も絶え絶え、私は彼に問う。
彼はその可愛らしいほどに大きい瞳に似合わない憤りの色を乗せながら、私の胸倉を掴んで、強く引き寄せた。




「ディーノから連絡が来た。お前、何処のマフィアの手のモンだ」


私は押しつぶされそうなほどの恐怖に、一瞬のうちに何故彼を…ボンゴレを守りたかったのかというその訳を、完全に見失っていた。
銃口は未だ、安全装置が外された状態で私の眉間に押し付けられている。一瞬、本当に一瞬だけ。本当の敵は『彼ら』ではないかと、そんなことを思った。
(08/12/31)


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