旧式Mono | ナノ

(47/63)

「あー…っと、俺らはお前らが家族同然の仲だって聞いていたんだが…どういうことだ?」


ディーノさんはそう言って頭を抱えると、鞭を軽くしならせる。
途端にトンファーに絡み付いていた鞭は外れ、長い鞭の先は彼の手の中に納まる。まるで、体操の競技でも見てるみたいだった。
ロマーリオさんは困ったように「どうなってんだ?」と私に聞くけれど、私はその答えになる言葉が、思いつかなかった。全てを話したとしたら、彼らは…キャバッローネは、ボンゴレは。

私をどうするのだろうか。
私が守りたいボンゴレファミリーと言う組織は、それでも暗黒の歴史を刻んできたマフィアのファミリーの一つに過ぎない。思わず骸の言葉を思い出して、私は開きかけた口を閉ざし

てしまう。利用されるのも戦いの種になるのも、嫌だった。


「私…は、」
「寝ぼけてるの?僕がこんなのと家族ごっこして群れる訳無いでしょ」


言葉にしようとした私の声をさえぎるように、ぴしゃりと彼の言葉が私の言葉を叩き落す。
瞬間に身を縮めた私を彼は冷ややかな瞳で一瞥すると、ゆっくりと私の方へと歩を進ませる。次第に近づく足音に、私は何も考えないまま私を支えてくれている腕…ロマーリオさ

んにしがみ付く。「お前…」と小さく零したロマーリオさんは、ただ呆然と私を見る。無意識に震えだした私の体に雲雀恭弥は右手を伸ばした。


「帰るよ」

それは、絶対的な言葉だった。抗えない、抗うことを許さない、絶対的な言葉。
私を見下ろす釣りあがった彼の瞳は相変わらず、何を考えているのか全く分からなかった。
主観に頼る形になっても、比較的に判断しやすい『優しいか否か』という物差しを彼のこの行動にかざしても、分からない。ただ、分かるのは、多分彼は私を逃がさないということ

。そして私は、逃げられないということ。それだけ。
私はロマーリオさんの制止を聞かずに、伸ばされた彼の腕を取る。痛みなど全く配慮されることが無い腕を引く力に、私は息を詰めながら立ち上がる。じわりと、腹の痛みが滲むよ

うに広がった。



「ふうん、首輪はちゃんとしていたんだ」
「…ひば、」

「じゃあ、これ付けといてよ」


彼はそう言うと、指につけていた歪な形のリングを私の手に握らせる。正真正銘、ハーフボンゴレリングだった。



「なあ…!恭弥、お前その子を返したら指輪受け取るって言ったじゃねえか!」
「…何言ってるの。僕は受け取ったでしょ?僕が僕のものを何処につけようと、あなたには関係の無いことだ」

「ちっ…ったく、ほんとにお前は一筋縄じゃいかねえっつーか天邪鬼っつーか」
「煩いよ。貴方に僕のことをとやかく言う権限なんて無い。コレで対等になったから、後は貴方を咬み殺すだけだ」


彼はそう言って薄く笑うと、私にここで待つように言って、駐輪所の方へ歩いていく。
恐らくバイクを取りに行くのだろう。私は振り返ってディーノさんとロマーリオさんに小さく会釈すると、彼らは少しだけ表情をゆがめた。


「なあボス」
「ああ、分かってる。…ええと、お前、名前なんていうんだ?」

「え?あ…苗字…ナマエ…です、けど」
「なあ苗字、お前…このまま戻って、大丈夫なのか?」

「…どういう、ことですか」
「お前が恭弥の何なのかとか詮索するつもりはねーけどよ。…平気なのかと思ってな。リボーンはお前がリングを盗むかもしれないから注意しとけって言ってたが、俺にはどうもそうに

は思えねえ。リボーンには俺が言っておくし…今日は俺らんとこに、」

「…大丈夫ですよ」


真剣な表情でそんな長台詞をいうそんな彼が可笑しくて、私は知らず知らずのうちに笑っていた。
ああそうだ。この人は誰よりも優しい心を持った人だった。私の予想通り、私の見ていた夢小説のままの人だ。
そんなこと、初めてで。この物語の主要メンバーに優しさなんて感じたのは、この人たちが初めてで。ソレが、とても可笑しかった。如何して私はこんなに痛い思いをしているのか不

思議な程の優しさに、私は笑った。笑うしかなかった。痛かった。本当は、その救いの手を取りたかった。



…でも、だめ。

私は否定の言葉を口にすると、バイクの音をするほうを見る。
もし私が彼らの暖かい懐に飛び込めば、確かに私は幸せ。でもそうすると、雲雀恭弥はいったいどういう行動に出るのだろう。私が持っていたものを他人が持っていただけで、『赤ん坊の知り合い』と戦う興味より『猫』へ執着するぐらい歪んでしまったのに。私が姿をくらませたら、彼はどう行動するだろう。また、何時かのように探すのだろうか。それとも、もういらないといってくれるのだろうか。
どうなるか分からない橋を渡る理由が『自分の幸福のみを求める』だけなら、私はそれを選ぶことが出来ない。だってこれは、私だけの問題じゃない。ボンゴレやヴァリアー、そしてキャバッローネの人たちの命も、将来的には握っている。そう思えば、私は彼らの手を見ない振りを出来ることもできるはずだ。自分の命が可愛い、こんな弱い私でも。


「有難う…嬉しかった、です。ディーノさん、ロマーリオさん」


私の表情に、彼らは驚いたように目を見開く。私は彼らの次の言葉を待たずに、逃げ出すようにバイクの音の鳴るほうへと走っていた。


「なあ、ロマーリオ。俺の名前あいつに教えたのか?」
「いや、俺はボスとしか呼んでねえはずだぜ。演技…とは思えねーが…怪しいな」
「一応、リボーンに連絡したほうがよさそうだな。あんな表情みちゃ気が引けるけが、これも弟分のファミリーのためだ」


そんな会話が、交わされているとも知らずに。
(08/12/31)


戻る?進む
目次



--------
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -