旧式Mono | ナノ

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ロマーリオと名乗ったその人は、車の中でいろいろな話をしてくれた。
見つけたとき、私はかなり酷い顔色をして気を失っていたこと。そしてリングを取ろうとチェーンを私の首から離した時に一度目を覚ましたらしい私は、泣き喚いて暴れて手の付けようが無かったこと。最後に、雲雀恭弥と自分らの関係のこと。そして、彼のボスのディーノさんのこと。

最初の方の話で私が「ごめんなさい」と連呼したせいか、彼は直ぐにその話題から話をそらした。
多分、私に気を使っているのだろう。相槌程度しか返さない私にも顔色一つ変えずにに、笑いながらボスの話をしてくれた。
俺らのボスがこれまた傑作でなあ。という話からイタリアの話、彼らの仲間の話。その話の殆どは『家庭教師ヒットマンREBORN』という漫画を通して私の中に記憶していることだった。だけど、彼の優しさが痛いほど伝わって、私は心から感謝していた。
私の身の上話も聞かず、如何してあんな場所に居て、何が起こったのかも触れることは無く。ただ、自分の話を楽しそうにする彼に。



「おっと…着いたぜ」


彼はそう言うと、並中の横(だと思われる)フェンスに車を横付けして、下りる。
私は俯けていた顔をゆっくりと上に上げると、そこには何処にでもありそうな校舎とフェンス。そして花壇。
その名のとおり並を意識したような中学校に私はいっそ眩しさを感じて、目を細める。中学なんて、卒業してから行った事もない。


「どうかしたのか、嬢ちゃん」
「い、え…な、何でもないです」

私も彼に倣うように慌てて車から降りる。思わず躓きそうになった私を彼は大きな腕一本で私の体を支えると、「気をつけろよ」と笑う。
「ごめんなさい…」と呟くように言った私に、彼はカラカラと笑うと、くしゃくしゃと私の髪をなでる。その笑顔につられるように少しだけ頬をほころばせると、彼はゆっくりと手を離した。


「さてと。俺はボスと連絡とって迎えに行くかな。嬢ちゃんのツレは正門に居るってよ。じゃあな、嬢ちゃん」
「あ、あの、ロマーリオさん…」

「ん、どうした?」
「……正門って何処にあるんでしょうか」


私の言葉に、彼は驚いたようにゆっくりと目を見開く。
しかし、ソレは立った一瞬で。彼は直ぐに笑顔を浮かべて頷くと、携帯を取り出した。恐らくは、ディーノさんと連絡を取るのだろう。
彼は車にロックをかけながら二言三言電話で小声で何かを話すと、それだけで電話を切った。そして、ボスもいるらしいから一緒に行こう。と、笑った。
だから、私は直ぐに考えることをやめ、ソレを忘れてしまう。如何して彼が驚いた表情をしたのか。そして、何故電話の声が小声だったのかも。




正門に着いた私を迎えたのは、金色の髪をした美麗の中の美麗な男の人だった。
女性でもうらやむ透き通った白い肌に、整った鼻筋。優しそうに垂れ下がった瞳からは優しさが全面的に滲み出している。見ていて、ほっとする人だ。

これが……ディーノさん。そして、キャバッローネファミリーと言う名のマフィアのボス。
その風体からは明らかに感じない彼の身分に、少しだけ可笑しさを感じた。こんな優しそうな人が人を殺すマフィアなんて、信じられない。
彼は私と目をあわすと、クシャリとその頬を緩めた。まるで子どもみたいな笑顔だと、そんなことを思う。この世界に来て数ヶ月、私はこんな風に微笑まれたことなんて一度もなくて、私は思わず顔をそらす。その瞬間、私は暗闇に立っている一つの影が視界に入る。誰かなんて、考える必要も無かった。



「雲雀、さ…」


月が雲に隠れたほの暗い夜の黒に溶けてしまいそうなほど黒い闇。
私の声がスイッチに鳴ったようにゆらりと揺れたその闇は私にゆっくりと近づくと、無感情な瞳で私を見下ろす。一瞬脳裏によぎったのは、初めて彼にあったときの記憶。反射的に身を引いた私の頬に、気が付けば激しい痛みと熱が広がっていた。


「恭弥!」

よろけた私はそのまま地面に倒れると、彼は私の足を踏みつけるようにわざと足を重ね合わせる。ゆっくりと体重を掛けられるたびに硬い革靴の底が私の足の甲に食い込み、私は表情をゆがめてしまう。
そんな私に彼は顔色一つ変えずに、声色ひとつ変えずに、無機質な感情の篭らない言葉をその唇に載せた。


「君、また風紀委員から姿をくらませたんだってね」
「っ、」

「恭弥、お前何やってんだ!」
「貴方には関係ない」



彼はそう言うと、足をどかして、私の腕を掴み上げる。
私が息を飲むのと同時に、彼は開いた片方の腕を振りかぶる。――やっぱり、逃げられない。白からも、黒からも。
迫り来る恐怖と痛みに思わず硬く目を瞑ったけれど、一瞬で振り下ろされるはずのソレは数秒老いても私に触れることは無かった。


「…何のつもり」


無感情だった声に怒りと言う感情を乗せた、不機嫌そうな彼の声が直ぐ傍で聞こえる。恐る恐る目を開けると、トンファーは私の目前スレスレで止まったいた。
グググ、と持ち上がり次第に私の近くから離れていくトンファーの取っ手には、彼の手の他に、ツルのようなものが巻きついている。……コレは…鞭?



「なあロマーリオ。これってリボーンの話とかなり違うんじゃねえか」


切羽詰ったようなディーノさんの声が、暗い闇に響く。
トンファーに絡みついた鞭は真っ直ぐディーノさんに向かい、彼の手の中に納まっていた。
助けてくれた…?と呆然とディーノさんを見る私に目の前の雲雀恭弥は不快を感じたのか、私の体を上に投げるように持ち上げると、体をひねった。トンファーごと捕まっている右手を軸にして回転した彼は、開いた左手の拳を私の腹部にめり込ませる。
予想もしていなかった痛みに喘ぐ私を擁護するように、ロマーリオさんが私の体を雲雀恭弥から引き離す。私は涙目になりながら、体をくの字に折って痛みに耐える。懇親の力で見上げた雲雀恭弥は、やっぱり何時もと同じような表情をしていた。



「…どうなってやがんだ、コレは」


僅かに困惑したようなロマーリオさんの声が、必死に嗚咽を咬み殺す私の耳から滑り込んだ。
(08/12/31)


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