旧式Mono | ナノ

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病は気から、というのはやっぱりあるのだと、私は18という年齢で改めて実感した。


外に出ると空気は冷たく、冬の乾燥したような独特の匂いがふわりと私の肺を満たす。
吐き出す息は白く染まって、淡く広がって消えてゆくのを見つめて、ため息。普段ならすがすがしさを感じる冬の空気も重く沈み、憂鬱以外の何者も感じない。


私をこんなにも憂鬱にしているのは、言わずもがな首にぶら下がっているう銀色のリング。
これ(ボンゴレリング)がここ(並盛)にあるということは、ヴァリアー編のリング戦に突入したという事実は明白で。それは何日後かは分からないけど。とりあえず、怖い暗殺部隊のヴァリアーがこれを求めて遠いイタリアからわたってくる事実を指している。
つまり、これを首からぶら下げて歩くというのは、自殺行為もはなはだしい。数日内に来るだろう恐怖に、私は頭痛と腹痛を感じていた。怖い。


本当は買い物も外してしたかったのだけど、雲雀恭弥の『外したら殺すから』の言葉に其れすらも阻まれる。
来た最初よりかは、ほんの少しだけ優しくなった彼だけど、やるといえばきっとやる人だ。殺すという意味でも、咬み殺すという意味でも。


それに、理由はもう一つある。
もし門外顧問の人たちかリボーンに私が持っていることが知れたら、其れはそれで生命の危機に陥るんだと思う。特に後者。
渡してきた時の(銃を突きつけて脅す)状況からして、多分彼らは私を信用はしてくれてないのだろう。だから、これを私が持っている=私が盗んだ。という方程式にいたることは、あまりにも明白だ。
…まあ、今頃ディーノさんと雲雀恭弥が対面している頃だから、彼らが私に問い詰めに来る未来もそう遠くないはずなんだけど。今日中なのか。それとも、明日なのか。とりあえず、24時間以内と見ていいのかもしれない。


「…なんで、こんな」


こんなことになったのか。
ため息と同時にそう呟くと、今日の私の見張り役の風紀の人が顔をしかめた。
今日の人は、名前も聞けていない…多分3回目くらいの監視の人。あまりわたしを良く思っていないのか、始終無言の人だ。だけど、こんなことも正直もう慣れっこで、私は曖昧に彼に微笑んで、顔をそらす。リングやらリボーンやら、そんなことを話せる相手ではないし、話したとしても理解できないだろう。


スーパーに入って、かごを片手に今日の夕飯のメニューを考える。
安い鯖を取ろうとして……はた、と手を止める。そういえば今日、彼は帰ってくるのだろうか?確かリングが渡されたその日にディーノが現れて、そこからはディーノさんと彼が戦うシーンしか見たこと無かったけれど。
錯綜する曖昧な記憶を手繰り寄せても、『夜の修行シーン』は一向に思い出せないけど。何となく修行から帰ってきたディーノさんが『並盛から遠ざけた』といっていたようなきもする。下手したら今日から一週間くらい、私はヒトリきりであの家で過ごすのかもしれない。
…いや、でも、リングが彼の手の中に無いのだから、今日のところは帰ってくるとみた方が、自然か。


取りかけたお徳用の4切れ入ったパックからずらして、2切れ入ったパックをかごの中に入れる。
どれだけ『家庭教師ヒットマンReborn』の原作を思い出そうとも、この世界は原作から少しずつ外れてしまっている。そして私が来た事で食い違ってきた変化は、時を重ねるごとに少しずつ大きくなってきていた。其れはもう、誤魔化しが効かないほどに。
最初の変化は…そうだ、黒曜編における雲雀恭弥の乗り込みの早さ、だったっけ。其れが今となっては話の大筋を左右しかねないリングの問題だ。
私がただこの道端にトリップしただけなのだとしたら。学校にクラスメイトとして通うだけなのなら、こんなに食い違わなかったはずなのに。よりにもよって私が落とされた場所は、関わらずにはいられない雲雀恭弥の家だった。どう行動したって、きっと何らかの変化を生むように白蘭が仕込んだんだろう。なんだかもう、泣きたい。


ぽんぽんとかごに放り込んで、ため息。
とりあえず一人だったとしても余らないように食材を調節しながら選んで、会計。
自動ドアを潜り抜けると、外で待機していた風紀の人は、待ちくたびれたとでも言うように舌打ちした。慣れていても、やはりあまりいい気はしない。イラつくというより、寧ろ悲しいという意味でだけれど。

足早と歩く彼の少し後ろを歩きながら、本日何回目かのため息。
だめだ、このリングを早急に対処しなければ、守るはずのボンゴレの人に殺されかねない。
人が良い人間が多いといっても、所詮はマフィア。綱やファミリーには厳しくも優しいけど、所詮は殺し屋。私みたいな一般人を殺すことなど、多分指に付いた埃をふっと吹き飛ばすくらいにしか思わないのだろう。引き金を引いただけで片付いてしまう、簡単な行為なのだから。私が彼らに殺されないという保証は、何処にもない。



どうしようか。

そう呟くと同時に、スーパーの袋を持っていないほうの右腕が、強い力で引かれる。
体が傾くと同時に捻りあげられるように腕を引き寄せられると、私の背中に『人の体』のようなものがゴツンと当たる。
悲鳴を上げようとした私の口をすかさずふさぐ、白い大きな手。私の体を拘束するように腰へと回された手の力は強く、振りほどけるほど生半可なものじゃない。商店街の中の、店と店の間の小さな路地。そんな場所をずるずると引きずられる私は、言いようのない恐怖を感じた。



どうしよう、殺される…!

そう感じた私の耳に、ゾクッとするような声で、ふわりと何かをささやかれる。
恐怖と緊張しきった私の脳ではその言葉は直ぐに理解できず、暴れかけていた動きを止める。
暴れないことを確認したのか、口と体を押さえていた手はゆっくりと剥がされる。だけどあまりに怖くて、私は顔を上げることが出来なかった。
どうやら、路地の端っこまで来たらしい。壁と犯人に挟まれるように立っている私には、どうやら逃げ場はなさそうだった。

涙が滲んだ私の耳に、低音の綺麗な声が響く。
だけど何故だろう。その声には聞き覚えがあって、私は反射的に顔を上げた。同時に、言葉を失う。


「久しぶりだね、ナマエちゃん」

ここへつれてくる乱暴さとは裏腹な、何処となく狐を思わせる柔和な笑みが、私に向けられていた。
暗い路地なのに、白い髪をなびかせるその人の名前を、私は知りすぎていて、思わず眼を見開く。

震える声でびゃくらん、さんと呟けたのは、少し後のことだった
(08/12/22)


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