旧式Mono | ナノ

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なんて厄日。


「光物がすきなのは烏だけかと思ったけど。君もこういうのを拾う趣味があったんだ」


くるり、くるり、クルクルリ。
彼の親指と人差し指の間で、弄ばれる銀色の指輪。其れは、私が守りたい未来に必要不可欠な『ボンゴレリング』に他ならない。
其れが私に押しつけられる以前、そこにどのような経緯があったのかは知らない。だってリボーンと門外顧問が一緒になって、『雲雀恭弥のペット(人間)にボンゴレリングを渡す』……なんて、そんなの私の知っている家庭教師ヒットマンREBORNには何処にも書いてない。
応接室においてあって、雲雀恭弥が其れを見つけて今現在のように指の先で弄んでいる…そんな捨て去られた未来予定図は、確かにあったけれど。
あの時は確か、ディーノさんにリングの話がしたいといわれたけど、雲雀恭弥は応じずにかみ殺したいといって襲ったはず。
そして、戦ううちに興味が出て、嵐戦の後にリングの話を聞いた……という『設定』だったのに。…なのに、何でこんなことになってるのだろう。


私はどうやったらそのまま雲雀恭弥の手にリングをとどめておくかという方法を考えるけど、不可能という言葉以外に思い浮かばない。
彼が私の言うことを素直に聞くはずなんて無いことは、文字どうり身に染みている。痛みや傷というカタチとして。だから、却下。
彼の言うところの赤ん坊である、リボーンの名前を出すのも手だけれど。「許可なく他人と交流を持った」という名目でトンファーの餌食にされる可能性も否定できない。というかそれ以前に、信じてもらえない気がする。私の言葉は、多分さっき嘘をついた時点で信用を失っているはずだ。
そもそも別に私は望んでリボーンに近づいたわけではない。…まあ、初めて会う彼らに一抹の希望を抱いたのは事実だけど…それでも、向こうが望んだことだ。私がもし其れを知っていたら、全力で彼らを避けるだろう。例え、避けきれなかったとしても、それでも。雲雀恭弥に殴られて殺されかけるより、ずっといい。
だから、こんな納得の行かない理由で痛い思いはしたくない、というのが本音。
原作に沿うために必要な痛みなのかもしれないけど、分かっていても痛いものは痛い。怖いものは、やっぱり怖いままだ。



せめて、ディーノさんや最強夢の夢主みたいに、雲雀恭弥に膝を付かせる力があればいいのに。
力の無い拳をキュッと握って、私は顔をしかめる。力さえあれば、私がディーノさんの代役になれたかもしれない。
……いや、寧ろ、こんな場所から出て行ってしまって、一人でこの物語とは関係ないところで生きていけたかもしれないのに。
でも、ないから。力なんて、無いから。こんな虚しさしか生まない妄想をしてしまうほど、私は弱者だ。草食動物にも劣る、寧ろ生命力の無い雑草並み。生きているのが、不思議なぐらい。


俯きがちだった顔を上に向けて、彼を見る。
雲雀恭弥は片眉を上げて、私を見下ろす。こちらを伺う慎重な瞳。もし私が右手を上に上げれば、すかさずトンファーが飛んできそうな緊張感。
私は自分自身を落ち着かけるためにゆっくりと息をすって、吐く。別に私は、話術に長けているわけでもなければ、策略を練るのが上手いわけじゃない。物事を順序だてて説明するのも苦手。だから、考えていても出てくるはずが無い。
彼に『指輪を受け取らせるための効果的な文句』…なんて。本当に存在すのかどうかも怪しい言葉なんて。


「雲雀恭弥さんに、あげます」


私はそう言って、奪い返そうと伸ばしかけていた手を引っ込める。
そんな私の真意を図りかねるのか、彼は疑うような鋭い表情で私を見据える。突き刺すような眼力に、体が恐怖を感じた。

下手に弁解するのは誤解を生むだけだと黙っていると、彼はようやく答えにたどり着いたのか「ああ、」と小さく声を零す。
しかし分からないからストレートに伝えるしかなかった言葉は、彼にとっては違うように聞こえてしまったらしかった。「つまり、落ちていたものが僕に似合うって言いたいの?」と、指輪とは違う銀色を閃かせる彼に、私はあっけなく腰を抜かしてしまう。
ぎゅ、っと瞑った視界は暗く、彼の表情は見えない。次の瞬間に襲うであろうトンファーの痛みを軽減するために、全身に力をこめる。だけど恐怖にプルプル震える体は、自分でも信じられないほど力が入らなかった。ああもう駄目だ。痛い。


「……べつに、いらないよ、こんなの」
「え……ぅっ」

ゴトン、と、明らかに重そうな音がしたかと思うと、冷たい温度が私の足に触れた。
痛みに備えて緊張していた体が、唐突な音に反応してビクリと震える。そんな私が鬱陶しさを感じたのか、彼は頭の上からグリッと私の頭を強く抑えた。
予想外の方向からの強い力に、私はくの字に体を折る。苦しさに、呻き声が唇の端から零れた。


「え、や、その…雲雀恭弥さんが持っていたほうが…」

「こういうの、つける趣味もないし。興味もないからいらない」


焦る私に、彼はハッキリとした物言いでぴしゃりと吐き捨てる。
そして指先で弄んでいたボンゴレリングを差し出そうとして……何か思い当たったように、ふとその指を止める。
思いとどまってくれたのだろうか、と少し期待した私に、彼はなにやら辺りを見回すような動作をして…私に背を向けた。何…?と不思議と震えが収まっていた体を持ち上げると、丁度彼が自室から戻ってきた。



チャリ、という金属と金属が触れ合う音がしたと思えば、冷たいものが首に触れる。
コツン、と硬いものが、セーラーの性質上むき出しになっている鎖骨に当たり、跳ねる。短い襟足に絡まる鎖。視線を下にやれば、見覚えのあるリングが私の首からぶら下がっていた。


「…さながら首輪だね」


僅かに満足げな表情を浮かべる彼とは対照的に、私は泣きたくなる。
雲雀恭弥が持つべきはずの雲の守護者のボンゴレリングが、持ってても意味の無い私の鎖骨あたりできらりと煌いた。
(08/12/13)


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