旧式Mono | ナノ

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どうしようどうしようどうしよう


殴った快感からか、それとも目の前の新たな獲物に興奮してか、私の耳元に熱っぽい息を不規則に早い息遣いがかかる。
快感とは程遠い、凍えてしまうほどの冷たい恐怖が私の体の下から上でと這い上がり、体を恐怖が支配する。怖い。怖い!



18年も生きてきたんだから、それなりに変質者に追っかけられもしたし。曲がりなりにも彼氏がいたから、まあそれなりの経験も通してきたわけだけど。だけどだけど、これは違う。変質者のように見せるだけの奴とは違うし、嫌だ嫌だといえばやめてくれる彼氏でもない。他人だ。
本当は公園に野宿しようとした私だったけど、こういう奴の出没率が多いことに気づいて、私はわざわざ神社に住んでいたのに。其れなのに、今更。



暴れようと身をよじらせた私に、冷たい金属が首筋に触れる。え、と呟こうとすれば、その反対側の首筋に生暖かいものが這い、私は息を詰めた。目の前の風紀委員は驚いたように目を見開き、必死に立ち上がろうとする。しかし、支えにした腕を不良集団の一人に蹴り上げられ、あっけなく床にひれ伏した。

気がつけば私は不良集団に囲まれていて、私はヒ、っと引きつったように息を呑む。
しかし、後ろから取り押さえてるリーダーの指図なのか、彼らは私には触れない。舐めるような視線で、衣服の剥ぎ取られた体を見るだけだ。



「や……っ」

恐怖に身を竦ませる私を無視し、まるで無力な鶏の足を束ねて持ち上げるように両腕を片手だけでひねりあげる。そして品定めするような視線の後、「嫌がった顔、そそるな、おまえ」とどこかで聞いたことあるような台詞を吐き出しずるずると林の方へ引きずられる。そして一番大きい樹に押し付けられると、彼はにやりと笑った。


逃げようとした私のこめかみぎりぎりの場所で、ドス、という音が響く。顔を動かせば、見慣れたものの相変わらず自分のものとは思えない顔が、銀色のナイフに映っている。

声も出ない私に、彼は部下を追い払うように【あっち行ってろ】という合図をすると、部下は不満げな声を上げる。その男はしょうがねえなあと笑い「後で喰わせてやるから、お前はその辺見張ってろ」と肩をすくめた。部下たちは其れで納得したのか、すぐに林の入り口の方へと消えた。

満月からは少し欠けた月が、私に馬乗りになった男の金髪を照らす。月光に照らされた彼の顔は、さながら獣のようだと思った。



彼は私の下着に手をかけると、其れを引きちぎるようにして一瞬で剥ぎ取る。ブチイ、と音がしたかと思うと、ブラジャーの背中のフックが食い込む痛さに私は顔をゆがめた。



「ハハ、んな顔すんなよ。楽しもうぜ?なあ――」
「ヒッ」


男の指が私の胸と下の下着に同時に触れた瞬間、引きつったような悲鳴が私の口からこぼれる。
自分の欲望のままに動く男は私の感情などお構いなしに、乱暴な手つきで私の体に触れる。あまりの気持ち悪さに、私は嗚咽を漏らすことしかできなかった。
別に感度が悪いわけじゃないのに、彼の行為の一つ一つが嘔吐感を増幅させる。しかしここ数日まともなものを食べていないためか、私のカラカラした口の中には、酸味のある胃液しか逆流するものがない。



彼は下半身に滑り込ませていた手を離し、いぶかしげに眉根を寄せる。彼の望んだような反応も、しかるべき場所を湿らせない私にどうやら不満を感じたらしい。「お前感じねえの?」とあまりにダイレクトな言葉に私は恐怖から涙を一筋零すと、彼はまあいーけど。と諦めたように呟く。



よくギャルゲーとかに、犯されても好きな人と愛し合ったときと同じような反応を見せる女がいるけど、あんなのはまずいない。
そもそも、女が性的に快感を感じて頂点に達することの出来る人間は全体中で半数弱くらい。それでも無理やり入れられた時にそこを濡らしてしまうのは、女の一種の自己防衛本能らしい。痛いから、少しでも痛みを和らがせるために、自らの女性ホルモンを分泌させる。……とそんなことを、確か保険の先生が言っていた。


別に私がその手の悩みを持っていたわけじゃなく、男癖の悪い友達と一緒に聞いただけの話。むしろ私には未来永劫関係ない話だと思ってた。なのに、身をもって体験するなんて一体誰が想像できただろう。



ぐ、と熱く硬いものを押し付けられて、私はあまりの気持ち悪さに涙と一緒に吐き気を催す。どうしよう。痛い。怖い。気持ち悪い。

何度吐き出そうとしても私のおなかには出すものはなくて、口の中にすっぱいものだけが逆流する。私の喉は上がったり下がったりを繰り返し、こみ上げる嘔吐感に耐えながらまた涙が出た。
彼が腰を進めた瞬間、わたしはあまりの痛みに唇を噛み閉める。ガリッと言う音と共に、私の口の中に鉄の味が広がった。湿っていないせいか張り裂けるような痛みが全身を支配した瞬間、違和感を感じた。不意に一度感じたことある視線を感じたような気がしたのだ。突き刺さるような殺意が滲み出た、氷点下の冷たく鋭い視線。


気がつけば、子分たちの笑い声はやんでいて、辺りには私の嗚咽しか響いていない。
その時突然、焦ったような足音が響いた。私の上に馬乗りになっている彼も其れに気づいたのか、緩慢な動作で私から体を離す。

「た、大変だ!並盛の、雲雀きょ」


彼の言葉は、それ以上続かなかった。ぐ、と呻くと前のめりに倒れて、其れきり動かなくなる。そして長身だった男がその場に倒れると、その後ろには小柄な男子が姿を現す。
私は涙に歪んだ視界で必死にその男子を見ようとするが、うまく彼の顔を見ることが出来ない。目をこするといくらかましになったが、すぐに彼を見たことを後悔することになった。

血まみれの白い学生服。
銀色に光るトンファー。
月明かりに照らされた顔は、騎士(ナイト)というよりかは明らかに闇に溶ける死神のような表情。


雲雀、恭弥。


雲雀恭弥は私と不良のトップを見比べてから、ふ、と微笑む。
いや、微笑むというよりか、不敵に笑った、といったほうが正しいのかもしれない。見覚えのありすぎる顔に、私は恐怖を覚えた。


「落し物を見つけたと思ったら、咬み殺す予定だった群れまで見つけるなんてね。ついてるな」


愉しげにそう呟かれた言葉に、私は『助けに来てくれた』という感謝よりも『殺される』という危機感の方が勝る。
どっちが悪役なんだかわからない『救世主』を、私はただ呆然と見つめていた。
助けて、と。声を出せば届いたはずなのに、私の声は彼に助けを求めることができなかった。
(08/09/24)


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