番外編 | ナノ

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Merry Merry

(3/17)

「ん?……あれっ、ユージさん!」


朝食後に雲雀さんを送り出して、その後は食料の買い物がてらいつもの散歩をしていると、ふいにぽんと肩をたたかれる。
振り向けば、スーツ姿のリーゼントの男。彼は私を見ると、ニカッと微笑む。哲矢さんかと思った私は、久方ぶりの人物に思わず頬が綻ぶ。
雲雀さんの命令で海外に情報収集をしにいっていたらしく、ここ半年ぐらい見ていなかった彼、山中勇治。
昔に忠誠心と極度のストレス状態に私に突っかかってきたこともあったけど、さすがに6年もあったらそんなこと関係ない。
元々情に厚く面倒見の良い性格をしている彼も、今はあの未来編に出てきた地下財団の一員だ。
ここ近年で屈強な体が更に厚みを増した気がする。以前雲雀さんから聞いた話によれば、私の護衛係に志願したとかしないとか。
雲雀さんが却下したらしいけど、こうやって見かけたら必ず声を掛けてくれる彼。まるで兄さんが出来たみたいで、少し照れる。

嬉しくて思わず顔を綻ばせた私に、彼は
私の持っていた荷物を彼は一瞥すると、ひょいと持ち上げる。拒否する、暇も無かった。


「あ、あの!別に其れぐらいなら私持てますよ?」

「ハハ、気にすんな。帰り道は同じだし、お前はソイツの面倒でも見てやれよ」


彼はそういうと、私の右肩に乗った黄色の毛玉を突っつく。毛玉はぶるるっと震えると、まるで威嚇するようにそのくちばしで噛みついた。
…丸いアヒルのような嘴じゃあ、ちっとも痛いのはそれこそ6年も前から知ってるけど。「コラ、」と、空いたばかりのマフラーで覆われた両手で包む。
よほど寒かったのか毛玉…もとい、ヒバードは私の包んだ両手の中で、気持ちよさそうに震えた。全く、世話が焼ける。
「よく懐いたな、其れ」とユージさんが言うように、ヒバードが来た当時は全く懐かず、寧ろかなり馬鹿にされていた気がする。
一体何がそうさせたのか、いつの間にかこの鳥は雲雀さん以上に私に懐くようになってしまった。正直、物語が壊れるからやめて欲しいんだけ、ど。
でも私自身こいつの可愛さに気づいちゃったりで、今ではかなり甘やかしてしまう。うん、甘い性格なのは自他共に自覚済みだよ。

ため息をついて、ヒバードを肩に戻すと、ぴょんと軽やかにジャンプするとジャケットの胸ポケットに潜り込む。
「ひゃっ!?」と訳の分からない(そしてぶりっ子のような気持ち悪い)声を出してしまい、私は自己嫌悪しながら、もぞもぞ動く胸ぽっけを強く指ではじく。
「ボーリョク、ボーリョク!」とヒバードは嘴だけ出して抗議してきたので、もう一発お見舞いした。これが暴力なら、あんたはセクハラだよヒバード。


「プハッ…お前、本当にしばらく見ないうちに女っぽくなったなあ。恭弥さんと何かあったのか?」

「…!?…や、なんで雲雀さんと関係あるのかは分かりませんが…変わりました、私?」

「鈍さも相変わらずかー。まあ、だけどその格好は恭弥さんの選択だろ?」

「……エスパーですね、ユージさん。まあ、こんな明らかに高そうな女っぽい服…私が選ぶはずも無いんですけど」


そう言って、私は改めて自分の格好を省みてみる。
チェックの短めの丈のワンピースに、ふわふわの白いコート。黒いブーツにニーハイ。正直、どれもこれも高そうで耐えられない。
多分文章上では何だその辺のショップに売ってる奴か。と思うだろうけど、コレは損なようなものじゃないのだ。
細かい場所がところどころ絞ってあったりレースが付いていたり、スタイルが良く見えるようになっているワンピース。
ふわふわのコートはなんかの動物の毛っぽいし、ブーツだってシンプルだけど何だか高級感が出ていて。ニーハイだけは普通かと思いきや草壁さん曰くどうやら違うらしいし。

正直、この世界に来てからずっとパーカーにジーパンとか特価品ばかり買っていたせいか、こういう服は着慣れなくてむず痒い。
そもそも向こうの世界に居た時だってこんな一点で数万する奴なんて着たこと無かったのに!最初は申し訳なかったんだけど、最近は着せ替え人形にされている気がしてため息が出る。
本当にそろそろお礼の一つでもしないと咬み殺されそうだ。


「あ、そうだ…お礼といえば……」

「ん、どうかしたのか?」

「え、や、あの。…そうだ。ユージさん、知ってます?雲雀さんの欲しい物とか」


私はそういうと、ゆーじさんはとたんに困った表情を浮かべた。
そして心底言いづらそうに、表情をゆがめて笑いながら口を開く。

「うーん、あるにはあるが……今のお前じゃあ、クリスマスプレゼントにはならんと思うぞ」
「そうですか…って、な、何故其れを!」

「分かりやすいんだよ、お前。それにこの時期に其れを聞くのはもう其れしかない、だろ?」


そう言って頭をぽん、とやられて、私は恥ずかしさで思わず顔が熱くなる。
見透かされている。っていうかやっぱりユージさんはエスパーに違いない。私の現状を分かった上で、的確なアドバイスをしてくれる。
つまり、雲雀さんの好きなものは――今の私でも変えないほど、金銭的な意味で高いのだ。
一年前くらいに一回、アルバイトをして自立をしようとして以来、私は彼から仕事場を奪われて、並盛中に私を雇わないように圧力を掛けられてしまって。
私の手元にあるお金は、万に届かないほどのお金だけ。こんなんで一体、何が買えるというのだろう。
明らかに意気消沈した私に、ユージさんは取り繕うように「何かを作ればいいんじゃないか?」と提案する。
作るねえ…と、考えた私の頭にふと閃いたものがあるけど、其れは無理だからと急いで却下した。しかし、彼は誤魔化せない。


「何か考え付いたけど、どうせ受け取ってもらえないから無理だって顔だな」

「――勇治さん、読心術使えましたっけ」

「んなわけねえだろ。俺はいつもお前を見てたんだ。其れぐらい分かるさ」


彼はそういうと、ニカッと笑う。私は諦めて、ため息を付いた。
そして今しがた考えた案を彼にこっそり打ち明けると、彼はアッサリと「それはいいな」といい、材料をそろえるお店に連れて行ってくれる。
正直私だって伊達に何年もここに住んでいるわけじゃないから分かるんだけど。其れでも彼の行為が嬉しくて、黙っておいた。
ヒバードはいつの間にかぽっけから出て、商品の毛玉を突っついて遊んでいる。黄色い毛玉と間違えて持って帰りそうだ。
色とりどりのそのモノに目を奪われながら、私は目的の色へと手を伸ばす。

「に、したって。自分が恋する中学生並みのおめでたい発想なんて、思いもし無かったよ……」

そう独り言を呟きながら、私は肌触りのよさそうな黒い毛糸だまを数個、かごの中から掴み取った。



(まあ、糸を紡いだ其れを)
(きっと君は付けてくれないけど)


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