番外編 | ナノ

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Merry Merry

(2/17)

如何して君は、そんなに人の気持ちを推し量れないのか。可笑しいけど、少しイラつく。



冷たい指先を暖めようとカップごと包む。
ワオ、こんなにも冷たいんだ。と思った僕に、彼女は馬鹿みたいにほうけた表情を浮かべていた。
そして何を言うのかと思えば、『コーヒーが飲みたかったですか?』なんて、思考回路を疑ってしまいそうになる。
普通こうやってすれば頬を赤くするものじゃないの?…いや、其れは、沢田綱吉とその恋人を見てのみの情報だから、普通と位置づけるのはおかしいかも知れないが。
まあ勿論群れるなと沢田綱吉は咬み殺させてもらったけど。今思うと、相手がそういう単純明快で分かりやすい人間でうらやましい。
いったいこの人間は…何処まで僕を馬鹿にすれば気がすむのだろう?コーヒーが飲みたいだけで、こんな冷たいもの触らないでしょ、普通。


僅かに悪戯心が働いて、カップを彼女の手ごと引き寄せてコーヒーを一口、口に含む。
どさくさにまぎれて彼女の指先に唇を触れさせると、彼女はようやく頬を僅かに赤らめて、目をそらす。
馬鹿でしょ、君。と、可笑しさを堪えきれずに笑ってしまう。何時まで初々しいままで居るつもり何だろう、彼女は。
まるでであった頃の18の彼女のそのままを見ているようだ。もう24にもなってこんなことで顔を赤らめるなんて、どうかしてる。


「…ねえ」

「…な、何ですか?」


警戒するようにどもりながら言う彼女の手から、マグカップを奪う。
そして其れを机に置くと、左手で拘束したままの彼女の両手を再び両手の中に押し込む。
あったかいです。はにかむようにそう笑う彼女に、何だか僅かに安心する。こんな気持ちに気づいたの、いったい何時だっただろう。
多分、ここ最近だっただろうか。……そう思えば、僕だって初々しいに入るのかもしれない。人間相手にこんな感情を抱くなんて、予想もしていなかった。


「…あの、雲雀さん…?」


僕の機嫌を伺うようにおろおろする彼女は、『猫』だった時期からなんら替わらない。
雲雀という呼び方にさせるのにも苦労したけど、これだけ長く共にいても僕から言い出さなければ、僕の名前を絶対に口にしない。
最初なんてフルネーム…雲雀恭弥さんという完全なる他人扱いだったから、まだこれはいいほうなのだけど。
哲ですら名前を呼ぶことを許可しているのに、彼女だけは絶対に呼ばない。…昔の事を、根に持っているのだろうか。


彼の掌を撫でると、彼女の左手のほうの手の甲だけ、ごつごつした肌触りになる。
刃物での切り傷というものは残りやすく、彼女の手の甲にはピンク色をした切り傷痕が未だに残っている。もう、6年になるのに。

「…懐かしいね」と、僕は言う。

彼女は少しだけ笑って、「そうですね」と懐かしそうに呟く。
何処と無く嬉しそうに見えるのは、十中八九僕の驕りだ。今思えば彼女があの時代楽しいと思えるようなことは、僕は与えれてなかっただろうから。


…いや、与えていないのは、今も同じか。

僕はそう考え、彼女の手をゆっくりと離す。ハアと息を吐いた彼女のため息は安堵なのか、寂寥感なのか分からなくて、僕はその頬を殴りつけたくなった。
6年前の僕なら殴っていたんだろうね。僕は自嘲しながら、机の上においたコーヒーを一口飲み下す。


今の彼女に、何か与えられるものがあるのだろうか。
僕はそう考えながらふと壁に目を映して……ふと、カレンダーが目に留まる。
カレンダーの比較的したの段にある、赤色に染まる12月23日の天皇誕生日。そしてその横に並ぶ、クリスマスイブとクリスマス当日。
……正直、群れるための行事は好きじゃない。というか、大嫌いだ。見ているだけで虫唾が走るから、いつも咬み殺すために外出する日。

何か、与えられるもの…か。

僕はそう思いながら、隣に座っている彼女に目を落とす。彼女は僕の視線に気づくと、ゆっくりと眠ろうとしていた瞼を押し上げた。
何、と彼女が口を開く前に。僕は彼女の唇を掌で抑える。彼女はとろんと眠たげな目で、僕を空ろに見上げる。


「ねえ、24と25日は、外出禁止だから」


僕がそういうと、彼女は驚いたように目を見開いた。
口に当てていた手を外したその瞬間、彼女の口角は上がっていく。微笑んだ彼女の髪に指を絡ませると、彼女はくすぐったそうに、身をよじった。


(さて、どんな夜にしようか?)

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