番外編 | ナノ

変換 目次 戻る

Merry Merry

(1/17)

「寒……」

ベランダに接したドアを開けると、冷たい風がするりとドアの隙間から滑り込んで、私の頬にぶつかる。
突き刺すような寒さだと感じるのは、やはり暖かい室内に居すぎたせいだろうか。吐く息は白く染まり、朝日にきらきら瞬いては、消えてしまう。
ベランダの手すりの部分に手をやると、凍えるように冷たかった。私は手を離して、ハアと息を吹きかけるけど、ちっとも暖かくならない。
まあ、いいけど。どうせ今から洗濯物干すんだしね。


見れた洗濯物に触れた瞬間、離したくなるほどの冷たさに私は顔をゆがめる。
とりあえず早く済ませるためにてきぱきと干していくけど、如何せん気恥ずかしさを感じて、思わずもたついてしまう。
年頃の男女の下着を一緒に干す抵抗感は何年たっても消えることは無い。いや、別に気にしてないんだけどね。ぜんぜん、ちっとも!
だけど…うう。何故雲雀恭弥の下着の柄を覚えてしまいそうで(嫌、本当はもう覚えてるんだけど…!)、とても嫌だ。
雲雀愛!とか言っている向こうの世界の住人に代わってあげたい。寧ろ入れ替わってください。頼むから。

基本的に彼の服は専らワイシャツと中に来ているであろうティーシャツだけ。寒くないのか、この季節に。
ため息を付きながらワイシャツをパンパンと伸ばして、乾いた時に皺があまり無いように伸ばしていく。アイロンがけも実は私だから、こうしておいたほうが楽なのだ。
ワイシャツのアイロンのかけ方は意外と難しくて、平然とやっていた母をかなり尊敬する。
特に袖と脇、襟首の部分。あと、ワイシャツってボタン外して開いた状態でかけても一緒にかけても背中に皺が寄るから、ほんとに苦手だ。


「…ハア」

一人で生きる強さも無ければ、家事も出来ない。こんな私を何故雲雀恭弥が匿っているのか。自分でいうのもあれだけど、理解に苦しむ。
利用価値なんてゼロに等しくて、利用価値が無い=役立たず=咬み殺す!の方程式の雲雀恭弥相手なのだから、なおさら。
でもまあ、何かお礼できるものがあるといいんだけど。…今月クリスマスだし、何か贈ってみるというのもいいかもしれないけど。

洗濯物を干し終えて、私は急いで部屋の中に入る。
陣割と暖かい部屋はとても快適なのだけど、如何せん冷え切った時にはこの高級感は不便だな、と思う。
エアコンと床暖房。これがこの部屋における、気温の調節の要。
普段生活するうえではとてもいいのだけど、『ここがあったかい!』というガスファンヒーターや灯油ストーブという類のものが無い。
だから、ここに暖かい空気が欲しい!という時は全く役に立たないのである。末端冷え性の私には、其れが辛すぎる。

室内で必死にハアハアと息を吹きかける私の背後から、ふと微笑むような音がして。
え、何?と振り返ると、ソファーの上に座っている雲雀恭弥が小さく含み笑いをしていた。…そんなに、可笑しかっただろうか?


「あの、何か…?」

と声をかければ、彼は含み笑いしながらも私に彼のマグカップを差し出してくる。
お変わりだろうか、と思って中を見れば、まだなかは8割がた入っている。……ん?どうしたいんだ、彼は。

「ホッカイロの代わりにはなるでしょ」

きょとんとした私の心を読んだように彼は言うと、再び新聞を広げる。
渡されたマグカップは確かに暖かくて、私は其れを両手で持ちながら、彼の横に座る。
向かい側に座りたかったのに、洗濯物を干している間に彼の書類に埋もれてしまったらしい。だから、仕方なく、の選択だ。
ため息を堪えながら、くんくんと湯気の匂いをかぐ。引き立てのコーヒーのいい香りが、ふわりと漂う。
あったかい。
かじかみ始めた指先でしっかり持つと、その振動でぱちゃっと一適、私の頬につく。

「あち……」

コーヒーカップを置いて拭こうとするけど、其れより前に温かい指先が私の頬を掠める。
ぺろ。振り向いた先には赤い舌。指先の茶色の液体は直ぐに彼の下によって攫われてしまう。
三日月を横にしたように微笑む彼は、何だか少し、楽しそうだった。


「…コーヒー、飲みたかったんですか?」

両手で持っていたものを差し出すと、マグカップではなく、私の手を包むように、彼の両手が包んだ。
そんなに暖かくは無い、中途半端に生ぬるい彼の手の温度と、暖かいマグカップにはさまれて。私の手は、直ぐに熱を生み出す。
至近距離で目が合って、さして寒くも無かった胸の奥に何だかむず痒い感情が体を支配していく。悴んでいるみたいに、居心地が悪い。

身をよじった瞬間に、彼はふと顔を傾けて。
彼は私の手ごと傾けて、コーヒーを飲み下す。私の指先が僅かに彼の唇に触れて、私は思わず、カップを取り落としそうになった。


(さて、プレゼントは何にしよう?)

戻る?進む
目次

--------
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -