番外編 | ナノ

変換 目次 戻る

Merry Merry

(15/17)

息が、苦しい。
胸が、痛い。

涙が…溢れた。



如何して私は逃げたんだろう。如何して私は走ってるんだろう。
分からない。でも、ただ怖くて。ただただあのまま雲雀さんの口車に乗ってこの感情に不本意な名前を付けられてしまうのが怖くて。
気が付いたら、外の冷たい空気の中に飛び出していた。

商店街の小さいけど綺麗なイルミネーションを通り抜けて、人の居ないような道を全力疾走。
体力的に限界を迎えた時には、距離的に結構あるはずの並盛神社の階段下まで来ていて、私は白い息を一杯に吐いた。
そういえば、最初に雲雀さんの家から逃亡してきた時も、ここに逃げてきたっけ。
いっそ懐かしさを感じながら、階段を上る体力も泣く、私は力なく階段の4段目に座り込んだ。



…逃げてきてしまった。

しかも、思いっきり暴言を吐いて。


「ハ…殺され、ちゃうな、わた、し」


乾いた笑いが口の端から零れ、荒い息の間から普段言葉にしないはずの独り言が零れる。
あんなこと言うつもりじゃなかったのに、如何してあんなふうに言っちゃったんだろう。
いくらあの人が自分勝手で且つ理不尽なことを聞いてきたって、そんなこと今に始まったことじゃないのに。
6年間も我慢できていた彼の我侭さに嫌気が差したんだろうかと思おうとしたけど、駄目だった。理由なんて、分かりきってる。


彼が意識していたとは思えないけれど、間違いなく彼は私に言わせようとしていた。
私が彼に抱いていた悶々としたうやむやな思いに、一般的に当てはまるはずの“感情の名前”。
私の感情に物差を置いて、それを測ろうとしたから、私は思わず『キレて』しまった。だって其れは、私が望まないことだから。

“好き”だなんて、そんなの、絶対に嫌だ。
そんなものを認めたら、必ずアレがきてしまう。だから、家族愛だと思い込むようにしたのに。だから、認めたくなかったのに。



「24歳にもなって、みっともな…」


今更認めたくないなんて建前で。
本当は、怖くて怖くてしょうがないだけだった。
人を好きになることが。期待を裏切られることが。

結局は自分が可愛くて、自分が傷つくのが怖いだけ。
しかもご丁寧に見放されたら生きていけないという理由まであつらえて。いっていることは、子どもと同じだ。
年を取れば自然に大人になるわけじゃないらしい。私の中身は、トリップしてきた18のままだ。
誰よりも臆病で、裏切られることが怖くて自分からは動けない。馬鹿で愚かな自分。
期待する前に裏切られるリスクを考え天秤にかける、最低な私。――本当に、恋愛の話しになると、何でこうも自己嫌悪してしまうんだろう。


「ああもう、最低…。馬鹿だ……なんで今更、こんな中学生みたいなこと…」


「…へえ。君、馬鹿っていう自覚あったんだ」




突然振ってきた声に、私は思わず動きを止める。
聞き覚えのありすぎる声が何だか頭上から聞こえた気がしたけど、余りにも其れはありえなさ過ぎて、上手く信じれない。
だって、私が走ってきている時に彼が追ってくる気配はしなかったし、見つかるにしても余りにも早すぎる。
寧ろ最初から私がここに来ることを予想していたかのような速さだ。だから、ありえるはずが無い。ありえたら、怖い。


だけど、…嗚呼。
恐る恐る顔を上げれば、そこには先ほどまで見ていた見覚えのありすぎる端整な顔立ち。
夜の闇にそのまま解けてしまうんじゃないかと思うほどの綺麗な黒髪をした彼は、私をただ無表情に見下ろしていた。



「見つけた」



(見つかった)

戻る?進む
目次

--------
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -