番外編 | ナノ

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Merry Merry

(7/17)


自分でも、変わったなって、そう思う。


時刻は深夜の2時。
私は出来上がる直前という長さまで来たマフラーから目を離して、手の中にある其れを頬利投げた。
連日連夜の編む作業に疲れきった目の奥が悲鳴を上げていて、私はソファーに体をなげだす。
カランカラン。
ブラックアウトする私の世界に、細いプラスチック製の編み棒の片方が床で跳ねる音を立る。
一人しかいない静かな空間の中で、その音はやけに寂しく、だだっ広いリビングに木霊した。



『2時までに僕が帰ってこなかったら鍵をかけときなよ』

と、彼が言ったのは、5日前のこと。
最近は深夜を越えることが多くなったと思ったら、今度は帰ってこない宣言。
あまり本気にしずにうんといったけど、こんなに寂しいものだとは思っても見なかった。ため息が、止まらない。
今まで帰ってこない宣言をしても結局帰ってきたりしたし。海外出張のときは連れて行ってくれたりしたから、私はあまり“ヒトリ”には慣れてない。
しかも、こんな広い部屋の中で一人ぼっちなんて、耐えられない。
昼間は風紀財団の人が来てくれたり、ヒバードが起きてくれてるからいいんだけど。
飼い主に似たのか、12時には寝てしまうため、零時を越えるとやたら静かになってしまうから、寂しさもひとしおだ。


「鍵…かけ、なきゃ……」

完全にブラックアウトする直前に、私は重たい体を持ち上げると、よたよたと玄関前に移動。
ここの部屋の鍵はオートロックだけど、内側から掛けれる鍵が特別にもう一つ取り付けられている。
外から解除できないし、無理やり解除させられた場合は風紀財団、そして雲雀さんの携帯に映像と状況が送られるようになっている。
正直ここまで完全な防犯体制をとらなくても、並盛を牛耳る雲雀さんのものなんて誰も盗らないと思うんだけど。私もいるし。

でも以前そんなことを言ったら「馬鹿でしょ、君」と言われたため、もう言わないようにしているけれど。
あの時は『君が物取りに対抗する力があると思ってるの?』って言われてるみたいで、随分悲しい思いをしたっけ。


ボタンを押してロックを掛けると、私はその場にへたり込んだ。
これで雲雀さんが帰ってこないことは決定で。私は今日も立った一人ぼっちで夜をすごすことが確定する。
この世界に来た6年位前から雲雀さんと一緒に寝ていたためか、一人で夜を過ごすのはどうも気が引けるのだけど。
まあ昔は枕代わりだったし。今は枕にはされてないけど腕とか掴まれてホッカイロ代わりだし。あまり『いっしょに寝る』という感じではないんだけど。
6年間も続けられたせいか、昔は緊張していたけど今は全くそんなことないし。寧ろ安心感を抱いてしまうせいかな。

酷く、落ち着かない。



「こんなこと、来たばっかの私が聞いたらびっくりするだろうなあ…」


雲雀さんといっしょに寝る時は、『動いたら殺される!』と常に緊張状態で眠れなかったのに、今はその逆だなんて、皮肉だ。
まああの頃と比べて雲雀さんもかなり丸くなって、私を殴る回数は多分3分の2くらいは減っているというのもあるんだけど。
そもそも私がこの世界に来たときは男の人が大の苦手で。手を掴まれる事さえあまり良い思いをしなかったのに。


慣れ、というのは不思議なものだと思う。
まあ多分、一緒にいても露ほどにも色っぽい雰囲気にならない“雲雀恭弥”という人間だったからこそ、私は慣れれたのかもしれないけど。
居ないと寂しい、なんて。そんな風に、雲雀さんを思う日が来るなんて。多分あの時の私には、想像もつかなかった。

言うなれば、家族のような。居ないとどうしようもなく寂しくて、空っぽになってしまうような、そんな感覚。
彼はどう思っているのか分からないけど、おんなじ様なことを思っていてくれたら、少し嬉しい。…なんて、ね。



「もう、寝なくちゃ…」


へたり込んだ体を壁に縋りながら起き上がらせて、重い足を引きずってベットの場所へと移動する。
無いとは思うけど、もし仮に明日朝早くに雲雀さんが帰ってきたらロック解除しなきゃいけないし。
朝食用意しておかなければ怒られるし。――ああ、でももう直ぐ約束の日だから、仕事も大詰めで帰ってこないかもしれないけど。
だけどそれでも、僅かにでも可能性があるから、がんばって早起きをしよう。

そう心に決めた瞬間、ベットに倒れこむように体が傾いて、私は意識を失った。
目覚まし時計をセットしていないと気づくのは、もっともっと後の話。



(だって、あなたに会いたいから)

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